複雑・ファジー小説
- Re: 星憑のエルヒューガ ( No.13 )
- 日時: 2014/03/01 20:10
- 名前: 夕暮れメランコリー (ID: vwUf/eNi)
視界が真っ白になってから数十秒後、僕はホシクイの前に立っていた。左耳に違和感を感じたので少し触ってみると、星を模した飾りのついたピアスが付いていた。僕はあまり装飾類は好まないので、少しうざったるかった。第一、こんなもの付けた記憶なんてない。
「ちょ、おま、こんな所いると危険だぞ!しかも兄ちゃんほったらかしだし!」
エギルの声を無視して、僕はホシクイに歩み寄る。
「まさか、ホシクイと平和的解決でもしようってか!?駄目駄目、やめときな!そいつら言葉通じないから!」
平和的解決?
そんなの、これとどうやってしろと言うのか。倒す事よりそっちの方が無理難題だ。
ホシクイの視線がシグナレスから僕に移り変わる。ホシクイはどうやら武器を持っているシグナレスより徒手空拳の僕の方が倒しやすいと判断したようで(そこまでの学習能力があるかどうかは不明だが)、僕に向かってあの触手を振り下ろしてきた。
————残念。
お前の認識は誤りだ————
僕はどこからともなく、いや正確には一時的に作った別世界へのゲートから二つの剣を取り出した。表立った装飾は何一つない、純粋に「戦う為だけ」に作られたそれを、僕は右手と左手、簡単に言えば両手で構えた。剣なんて持つのは初めての事だったし、重くてうまく扱えないのではないかと危惧していたが、どうやらそんな心配はするだけ無駄だったようだ。
「はぁ!?お前なにそれ!?実は星憑でした、みたいな?」
シグナレスの表現には少しだけ齟齬がある。僕は星憑“だった”のでは無く、星憑に“なった”のだ。
突然僕が武器を持った事に驚いたホシクイは、咄嗟に触手を戻そうとした。が、振り下ろした物を元に戻すなんて不可能だ。当然ホシクイは目標とはそれた地点に触手を打ち付ける結果になり、大きな隙を僕に与えた。そんな隙を見逃す奴は、相当慈悲深い人だろうと、僕は触手を輪切りにしながら思った。
ちなみに僕にとっての隙はシグナレスにとっての隙でもあり、シグナレスも容赦無く矢を放っていた。
死にかけたホシツキの最後の足掻きなのか、悲鳴とはまた違う奇声をあげて襲いかかってきた。どうやら触手を全て使っての攻撃のようだが。
しかし触手での攻撃など避けてしまえば問題ない。僕は器用に、打ち付けてきた触手の上に乗り、多少ぬめっている触手の上を駆けてゆく。星憑になると身体能力も飛躍的に上がり、普段の僕なら五秒走ったら滑って落ちるような触手の上を走れた。
「おいお前!そのホシクイの弱点は頭だ!その剣でそいつの脳天にブッ刺してやれ!俺は触手の方を片付ける!」
シグナレスが矢を放ちながら叫んでいる。僕はこくりとシグナレスに頷くと、間近になったホシクイの頭を睨む。
きっとホシクイ自身も頭をやられるとヤバイ事を察している筈だ。触手を総動員してでも守るに違いない。なら、そのまま陸続きで行くのは不可能。だったら————
陸が無くても空があるじゃないか。
星憑は短時間なら飛行が出来るらしい。マニュアルがあった訳ではなく、例えあったとしても読んでいる時間は無かった。ただ、なった時に頭に必要最低限の情報が入ってきていたのだ。
ちりり、とピアスが音を立てる。人によって様々だそうだが、一人一つは『ジョウホウタンマツ』とやらが付くらしい。これは相当便利なもので、必要な情報は全て頭の中に入るように設定されている。科学の「か」の字もない「箱庭」ではお目にかかれない代物だ。
『飛行可能体制に移行しました。制限時間は十秒です』
中々に短いフライト時間だったが、それで十分だ。
僕は思い切り助走をつけてジャンプした。