複雑・ファジー小説
- Re: 星憑のエルヒューガ ( No.14 )
- 日時: 2014/03/02 16:20
- 名前: 夕暮れメランコリー (ID: vwUf/eNi)
『十、九、八、七……』
カウントダウンが脳内で鳴り響く。かなりな強風と化した風が皮膚へ当たる。
想像通り、相当な高度にまで上がる事が出来た。
『六、五、四、三……』
カウントダウンは続く。
無慈悲な声は、より一層僕を冷静にさせてくれる気がした。
『二、一』
カウントが遂に、十と言う数字全てを言い切った。いや、まだ一つ残っている。あれは確か自然数だったか、そうでなかったか。
『零。飛行時間終了です』
瞬間、僕の身体は重力に引っ張られた。
ひゅおおお、と風の音と、物凄い勢いで変化していく景色。その景色は次第に大きくなっていき、ホシクイの頭だって鮮明に見えてくる。僕は右手に持った剣の切っ先をホシクイに向けた。
ホシクイは本能的なものなのか、触手を頭の上に向けて必死に防御する。しかし高い所から落としたボールが物凄い勢いで跳ね返る事から解るように、遥か上空から落下してきた僕の攻撃は、触手をも突き抜ける事が可能—————!
「はああああああああ!」
あんな上空から落ちてきたんだから、剣にも相当の不可がかかるので折れるのではないか、と心配していたが、どうやらそれは無いようだ。折れるどころかヒビ一つ入っていない。
ぶちぶちぶち、とまるで血管でも切れるかのような音を立ててホシクイの触手は僕の剣によって断ち切られる。シグナレスの銀の矢を受けた時よりも大きな悲鳴をホシクイはあげるが、耳を塞ぐ事は不可能なので僕はそのまま剣をホシクイの脳天に突き立てた。
「——————————————————!」
超音波、と表現するのが一番正しい声をあげてホシクイは消滅した。ホシクイのいた場所にはでろでろしたスライムのような、濁った物体がしばらく存在していたが、一分程したら水が蒸発するかのように跡形も無く消えてしまった。
「んでさ、そこのお前さん星憑だったの?見知らない顔なんだけどさー?」
「……いや、僕はついさっき星憑になったばかりだよ。さっきのはいわゆる僕の初戦、かな」
シグナレスの質問に嘘偽りなく答えたら、たいそう驚かれた。何故か傷付く。
そしてゆっくりと、シグナルさんも歩いてくる。シグナレスに「自己紹介した方がいいんじゃないのか?」と常識人な事を言ってくれて、何だか僕は非常に助かった。自分から名乗るのはちょっと勇気が必要だったから。
「俺はシグナレス。弓が得意でこれなら誰にも負ける自身が無い!ちなみに射手座の星憑な?」
「一応簡単な自己紹介はしたが……俺はシグナル。職業は鍛冶屋をやっている。白鳥座の星憑だ」
星憑って、星座なんだ……と言うか僕は何座の星憑なんだろうか。シグナレスのように、武器で判断できるケースもあれば僕みたいな訳のわからないケースもあるようなので、ちょっと解らない。
「あ、僕はヨダカです。……え、と何の星憑なのかまだ解りません……」
「えー!?自分のホシビトに教えられなかったのか!?ったく、そのホシビト不親切だなー!」
「双剣使う星座なんて居ないよな……。『二つ』と言う意味なら双子座の可能性もあるがしかし、双子座はもういるからなぁ……」
あ、双子座もういるんだ。
「だいたいホシビトってその星座で一番明るい星の名前を付けるから、今度会った時に名前でも聞いてみたらどうだ?星座を聞く方が早いけど、何か話を聞く限りだとそうそう簡単に教えてくれないだろうから」
まったくシグナルさんの言う通りだ。僕はその意見に一度頷くと、家路につこうとした。流石に家族も心配しているだろうから。
「あ、ヨダカ、お前これから……」
どうするんだ、と言おうとしたシグナルさんの台詞は、がちゃがちゃと五月蝿く近づいてきた鎧の音でかき消された。