複雑・ファジー小説

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.15 )
日時: 2014/03/02 16:47
名前: 夕暮れメランコリー (ID: vwUf/eNi)

「あーもー、だから「箱庭」は嫌なんだよもうっ!上空飛んだだけでもすーぐ軍隊差し向けて来てさー、嗚呼嫌だ嫌だ!」
 シグナレスは心底恨めしそうにそう毒づいた。
「だいたい何で「箱庭」にホシクイが出たの!?これまで出現事例は最近全く無かったって言うのに!」
「……確かにな。ここら一体は最近全くホシクイの被害が出ていなかった。にも関わらず今日急にホシクイが「箱庭」に出現————あいつらはいつも徐々に勢力を拡大していっていたのに」
 また僕は話題に置いてけぼりだ。ちょっとは状況が飲み込めればどうにかなるのだろうけれど、僕は星憑の中でも新人中の新人、下っ端中の下っ端。パシリに使われるのが関の山だ。
「とにかく細かい話は後だ!早く隠れるぞ!」
 シグナルさんに先導されるように、僕たちは瓦礫の影に隠れた。あくまで一時的な避難なので、見つかる可能性もある。僕は見つかるまいと頭を引っ込めて、まるで怯える小動物かのように丸まった。



「ひゃー、これは酷いな」
「一体どこをどうしたらこうなるっちゅーんだ……」
「門番に確認した所、ここ一時間程外からの人間は誰も入ってきてはいないようだ。南北両方な」
「て事は国内の人間の犯行か、あるいは……」
「ああ、あれか?時折空を通っていく「星憑」とか名乗るふざけた奴等か?」
「やりかねないな。あいつら、えーっと星?か何かの力を借りているみたいだから人間離れしたものが使用出来てもおかしくはないんだよな……」

 声から判断するに、来た兵士は最低でも二人いる。その兵士たちがこちらの瓦礫に近づいてきたので僕たちはより一層息を潜めた。シグナレスに至っては恐らく僕のピアスと同じ『ジョウホウタンマツ』である星型の髪飾りを握っていた。いつこちらがバレてもいいように戦闘体勢にでも入っているのだろうか。
「まあ、こんだけ酷くやらかしてくれたんだ。どうせ生存者はいないでしょ。死亡者人数、及び氏名は……身体がバラバラになってるから数えても意味無いか」
 そうだな、と相手の兵士は溜め息混じりに言葉を返す。さっさとこんな任務終わらせたいのだろう。


 つまり、これで家に帰らなかったら僕は見事に死亡者扱いな訳で、でもそれで悲しむのは一体誰なんだろうと思案して—————やめておいた。そんな事考えても無益だ。
「で、どうするヨダカ。別に家へ帰ってもいい頃だろう?」
 心配そうにシグナルさんが聞くが、別にそんな事どうでもいい。
「いいえ、帰りません。どうせこんな状態から帰ったってバケモノ扱いされるだけでしょう?」
 よく見ると服には誰のものかわからないけれど、返り血がついてしまっている。こんなので帰ったら逆にバケモノ扱いを悪化させるに決まっている。
「つー事は、だ。俺たちと一緒に来るの?来ちゃうの新人君?」
 訓練はきっついよースパルタだよー、とシグナレスが脅しをかけてくるが、そんなの「箱庭」にずっといるよりかマシであろう。
「別にそれでもいいです。こんな所にいるよりか有益ですから」
 そう言うとシグナルさんとシグナレスは驚いたように顔を見合わせて、「ま、そりゃそーだ」と笑いかけた。





 —————この日から僕は、空想上の存在だとされてきた「星憑」になったのだ。