複雑・ファジー小説

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.18 )
日時: 2014/07/30 17:43
名前: 夕暮れメランコリー (ID: G35/fKjn)

「あ、あの、これ」
「見て察そうぜ?駅のホームだよ、駅の」
 いや、そのくらいは僕でもわかるけど。あの「箱庭」にこそ汽車は通じていなかったけど、懇意にしていた旅人が持って来た本で見たことがある。
「……何で浮いてるの」
 シグナレスは一度きょとん、とした顔をしたけれど、すぐにお腹を抱えて笑いだした。
「んなの考えたら負けだよ、ま・け。そんなこといちいち突っ込んでたらこれから先、身が持たないぜ?」
「……まぁ、否定できないな。頑張れヨダカ」
「いやいや頑張れじゃなくって!」
 これから先どれだけ非現実的な事ばっかり起きるのかを考えると胃が痛くなる……
 そもそも星憑なんてものが出てきた時点で非現実的だけれども、僕も今さっきその非現実的なものに加担した件は置いておこう。
「ラッキー!あともーちょいで“あいつ”来るじゃん!これ逃したら……げ、あと二時間も来なかったのかよ」
「ま、一本しか通ってないからな、しかも車掌もあいつだけときた。もうちょっと何とかならないのかねぇ」
 会話の内容がいまいち理解できない僕は大人しく駅のホームで汽車を待っている。
 ……星憑の本部についたら色々調べよう。そうしないとやっていけなさそうだ。


 一分後。
 汽笛が微かに聞こえたと思ったら汽車がホームに流れ込んできた。運転席と思われる場所に人影が見えて、僕は直感的にそれが二人の話していた“あいつ”だと理解した。
「よーっす、久しぶりだなシグナルとシグナレス!!何週間?いや何ヶ月ぶり?てかさなーんでこの俺の操縦する『銀河鉄道』を頼ってくれなかったかなぁもう!これさえありゃ任務のある場所へこうばしゅーんとばひゅーんとすぐ着いちゃうのに!画期的だと思わない?ね?思うでしょ?感謝してよねこの俺に!」
「相変わらずうるさいなお前ッ!」
 運転席のドアが勢いよく開いたかと思うと突然のマシンガントークをする少年。歳は僕やシグナレスと同じくらいだろうか。サンバイザーを着用していて、そこに『ジョウホウタンマツ』と思われる星型の飾りがついている。
「ん?こちらのびしょーねん君はどちら様?はっまさかシグナレスにそんな趣味がっ!?いやいやいや俺は別に人の趣味をとやかく言う趣味は持ち合わせてないけどさ?バレたらヤマネコさんとかホモイがうっさいから黙っとけよ?あーそっかそうなのかー……」
「すっごい心外なんだけどそれ」
「え?じゃあシグナルさん?」
「違う」
 そう言ってシグナルさんは僕の左耳を指差す。それでようやくマシンガントークの人も納得がいったようだ。
「なぁるほど。俺らの新人サンか。で、お名前は?」
「よ、ヨダカ、です」
 ちょっと緊張してしまって上手く舌が回らなかったけれど、そんなことは気にしない主義の人なのか、マシンガントークの人は「へーヨダカ君かぁ……ヨダカねぇ……」とぶつぶつ呟いている。
 どうせ名前負けしてるとか思われているんだろうな、と察して悲しくなった。きっと名前が「スズメ」とかだったら皆納得していたんだろうな。
「あ、俺はジョバンニ。この星憑専用路線『銀河鉄道』の車掌してます!」
 びしっとそれらしく敬礼して、ジョバンニは僕に色々聞こうとマシンガントークの準備をしていたがシグナルに止められた。
「とりあえずさっさと出発させろ。聞くのは出発してからでもいいだろ」