複雑・ファジー小説
- Re: 星憑のエルヒューガ ( No.2 )
- 日時: 2013/08/11 16:43
- 名前: 夕暮れメランコリー (ID: hMEf4cCY)
アイツは、一言で言えば「豚」だった。いや、体型がそうと言うだけであり、本物のように愛嬌のある顔はしていない。僕はそいつの顔を思い出すことにすら嫌悪を抱くので、残念ながらアイツの顔を詳細に表現できない。
さて、それだけならまだ僕は「どうしようもない」とは思わない。問題なのはアイツの性格なのだ。
その悪評は近所に轟いていて、「うちの子供が玩具を取り上げられた」だの「空き地を独占された」だの「石を投げられて、それが額にぶつかった」なんてのもあった。じゃあそいつの親はどうしているかと言うと、なんでも父が政府のお偉いさんで母が金持ち……らしいので不用意にそんな文句を言ってしまっては、どうなるかわかったものではない。
僕は基本面倒くさい事に首を突っ込まない主義なので、家が正面であるにもかかわらず、一言も会話を交わしたことなどなかった。いや、正確には「交わりたくなかった」。
そう、あのよく晴れた今日の昼下がり。
あの日卵の在庫など切れなかったら。
弟が遊びに行かなければ。
僕がアイツと遭遇する危険性を察知し、裏口からお使いに行っていれば。
————アイツと鉢合わせ、なんて絶望的な事態にはならなかった。
「よぉ」
完全無視しようと思っていたのに、あろうことかあっちから話しかけてきた。もうこうなってしまえば逃げる、なんて選択肢は閉ざされてしまった。だってあっちは脂肪だらけとはいえ巨体で、対する僕はよく女と間違えられるくらい細身だ(いや、女顔ってのもあるんだろうけど)。
「こ、こんにちは」
僕は適当に挨拶してその場をやり過ごそうとした。しかし相手が僕を見逃してくれる、なんて奇跡は起きなくて。
「こんにちはも何も、お前とは初対面なんだけど」
じゃあ初めましてと言えばいいのか。
「まーどうでもいいや。お前、名前は?」
自分から名乗れよ、と言いたくもなったがそこはこらえて自分の名前を言った。こんな時は相手の言うがままにした方が得策なのだ。
「ヨダカ、です」
ヨダカ。確か何処かに生息する鳥の名前で、声だけは鷹に似ているからと言って「夜の鷹」の名前をもらってしまった鳥。
何故僕がそんな名前になったのかわからない。母親に聞いてもはぐらかされてしまい、十五歳となった今でもわからないままだ。
でも僕本人はこの名前、結構気に入っている。名前の響きも綺麗だし、「夜の鷹」なんてちょっと格好良いじゃないか。
しかしこの名前が裏目に出た。
「————んだよ、お前も「鷹」が名前に入ってンのかよぉ」
凄く嫌な予感。
「改名しろ今すぐに!と言うか何故お前がこの俺と同じく名前に「鷹」が入っているんだ!恥ずかしいとは思わないのか!申し訳ないとは思わないのか!」
理不尽すぎるだろ!