複雑・ファジー小説
- Re: 星憑のエルヒューガ ( No.20 )
- 日時: 2014/09/07 16:43
- 名前: 夕暮れメランコリー (ID: G35/fKjn)
「その話題は置いておいてさ、何で銀河鉄道の操縦士になろうと思ったの?」
ジョバンニは僕が露骨に話を逸らしたのが気にかかった様子だったが、深くは追求せずに質問に答えてくれた。
「んー、単純にお偉方さんからの指示ってのが一つ。あとその頃の俺って星憑になったばっかりだしなんか……まぁ色々あってさ、結構病んでた訳。とてもじゃないけどホシクイ討伐なんてできっこない」
今は出来るけどな、とジョバンニは付け加えてからこう続ける。
「だからこそ俺に白刃の矢が立ったのかねぇ……ホシクイ討伐の出来ない星憑なんてさほど役にも立たないし、まあ厄介払い?」
今でこそ笑っているが、このジョバンニという少年は少年で結構いろんな後ろめたい過去を抱えていそうだった。あまり掘り返さない方が彼の精神的にも良いと判断して、僕はその話題を打ち切った。
「後どのくらいで本部に着くの?」
「本部?うーんと、十分くらいだな」
十分。短いようでそこそこ長い時間。長いようで短い時間でもある。
「つーか待ってよ、あそこの駅から乗ってきたってことは何?「箱庭」に行ってきたの?ひゃー大変だねー、俺なんてずっと銀河鉄道に缶詰みたいなモンだから「箱庭」にお世話になったことはないけどいろんな人から話は聞いてるよー?だっめだめな今の国王サマになってから科学技術は進歩ナシどころか衰退してるし、星憑への理解は無し。そのくせ一丁前に夜空が好きとかぬかしてるんだからどうしようもないな」
相当な悪意を感じるジョバンニの「箱庭」に対するイメージ。彼自身が「箱庭」へ来たことはないのだろうけど、自分の目で見たことのないものをここまで悪く言えるものなのか。いや、見た事がないから悪く言えるのか。実際に「箱庭」に来たものなら悪口を通り越して「もう駄目だ」と達観するから。ちなみに僕は達観を通り越して諦めの境地に達している。
「そーそー。箱庭に出たんだよホシクイが!最近あそこらへん出てなかったから完璧に油断してた、そんでもって到着遅れて被害は甚大。まったくもって最悪だよ」
シグナレスが不機嫌そうな顔で話に参加する。シグナルさんはいつの間にか寝てしまっていた。規則正しい寝息を立てている。
「最悪の状態だったけど最高の収穫もあったわけだから別にいいけどさー、なっヨダカ!」
まさか名前を呼ばれるとは思っていなくて、僕はびくっと肩を震わせた。
「は、はい!?」
先程の話の「最高の収穫」ってまさか僕のことじゃないだろうか。そう言われるのは悪くないが、あの時はあの時であって、今あんな事が出来るかと聞かれたら自信満々に「出来る」と答えられる自信がない。むしろ無理だ。
「だってさー、こいつ俺が大分体力削っていたとはいえホシクイ倒したんだぜ?初戦で、しかも大型を!だいたい皆初戦は小さいホシクイ一匹倒すのにも苦戦するものなのに……状況も状況だったししょうがないのかもだけど」
シグナレスの話からだいたいの事情は察したらしいジョバンニが、まだシグナレスの話に理解が及んでいない僕に対してわかりやすく説明してくれる。
「……だいたい皆どうやって星憑本部へ行く足がかりを掴むのかと問われれば、それは本部にホシビト契約者名簿があるから。一時間に一回は新規契約者がいてもいなくても更新されるし、新規契約者がいれば連絡がお偉方に入るから見落とす心配もない。そこから契約者の氏名と住所が勝手に調べられて、もれなくお迎えが来るって訳。この時点で実はヨダカ、お前かなり特殊な事例なんだぞ」
「で、皆がどうやってホシクイと戦う機会を得るかというとだな、ざっくり言えば小型のホシクイを倒せって司令が新人に下る。でも新人一人じゃ心もとないから中堅————俺とか兄ちゃんとか、そこらへんの強さの奴がヘルプに入る。万が一新人一人で倒せなかった場合を想定しての対処だ。いくらヨダカが期待の大型新人で、大型のトドメをさしたと言ってもしばらく任務はこればっかになるから覚悟しとけよ!」
シグナレスの追加説明が終わると同時に、駅のホームが微かに見えてきた。僕たちが乗ってきたホームよりかなり立派なので、多分あれが本部へ通じる駅。
「おっと、もうそろそろ到着かな?シグナレスお前、シグナル起こしてやれよ」
「りょーかい」
ジョバンニが僕の視線の先に気付いて呟く。シグナレスはシグナル
さんを起こしにかかっている。
僕の『新天地』での生活がスタートする。