複雑・ファジー小説

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.30 )
日時: 2015/08/24 14:58
名前: 夕暮れメランコリー (ID: 5dLFZzqu)

「何を驚く必要があるのよ、新人にはしばらく中堅がついてホシクイ討伐するってのがルールでしょ」
「いや、そうだけどさ……ホモイお前新人と一緒に討伐行くの嫌がってたじゃないか。足引っ張られるとか言って」
 ホモイさんはふん、と鼻を鳴らしてシグナルさんの問いに答える。
「コイツがそうじゃない新人だと判断しただけよ」
 コイツ、とは紛れもなく僕のことである。ホモイさん絶対それ過大評価です。
「えーっと、丁度良さげな討伐依頼ってあるかしら。緊急依頼が無いって事は今は雑魚掃除くらいしかないわね」
 新人には丁度いいわ、と言ってホモイさんはなにやらジョウホウタンマツを弄っている。
「平原に出現した小型ホシクイ百匹討伐……うん、これなんか良さげね。万が一根をあげても百匹くらいなら楽勝だし、私」
「俺だって百匹くらい余裕だぞ余裕!」
 対抗するようにシグナレスが声を上げる。が、ホモイさんは「時間制限付きだったら私の方が余裕の勝利よ」と妙に勝ち誇った笑みでシグナレスに自信満々に言い放つ。ホモイさんの武器がなんなのかは分からないが確かにシグナレスの武器は弓で、矢を射るのに多少の時間を用する為、時間制限が付くと不利になってしまう。
 それを分かっているのかシグナレスはホモイさんの言葉に反論したりせずにぐぬぬ、と唸っている。
「じゃあヨダカ、討伐は明後日だから。よく休みなさい」
「頑張れよヨダカ、記録ではこれがお前の初討伐になるんだから」
「ホモイの出番が無くなるくらいまで活躍しちまえよー!」
 三人は僕に手を振りつつ何処かへと去っていく。僕も最初は笑顔で手を振り返していたけど、とんでもなく重要なことに気付いて真顔になった。

「僕、何処で休めばいいの……」

 なんだか凄いコンピューターのHALさんがいる部屋の前で僕は途方にくれていた。そもそもここの構造もまだよく分かっていない。後は情報端末の使い方。
 ええいもうHALさんと一緒に寝てやる、いやHALさん人間じゃないから寝ないけど多分、と半ばやけくそになっていた時だった。


「あ、カシオペアだ」


 エントランスで見かけた人物が僕を指差してきた。

「どーしたのこんな所で。あっまさかカシオペア座でショック受けてる?だとしたらご愁傷様だねカシオペアさん!」
 例の特徴的なかぷかぷ笑いで凄く僕の心を抉るような事を言ってきた。エントランスの時は確かクラムボンとか呼ばれていたっけ。
 と言うかショック受けてるって憶測立てているのに執拗にカシオペアカシオペアと連呼するのはどうかと思うぞ……?
「いや、そうじゃなくて……半分はそうかもしれないけど……休む場所何処かなって」
 クラムボンはきょとんとした顔になって「シグナルとかシグナレスに自分の部屋案内されなかったの?」と聞いてきた。
「……いや全く」
 僕がそう答えるとクラムボンはまたもやかぷかぷ笑い出した。
「新人の星座確認してホモイと喧嘩してそのあと新人のカシオペアは放置ときた!いやぁこれは傑作!これで暫くはシグナレスを弄って遊べる!一ヶ月くらい!シグナルはつまんないからいーや」
 ひとしきり笑った後、クラムボンは「じゃ行くよ」と言って何処かへ行こうとした。
「ど、何処に!?」
「いや話の流れから分かるでしょ。カシオペアの部屋だよ」
 瞬間、僕は妙な感動を覚えた。このクラムボンという少年は口こそ悪いが根はそんなに悪くないのだと。勝手に歩き出すクラムボンだが、歩幅がそんなに大きくない(少年だから仕方ない)のですぐに追いついた。

「うーん、このままカシオペアを放置するって手もあるしそれはそれで面白そうだけどそれじゃシグナレスと一緒だし。遊んだ時にそこ指摘されたらつまんないし。それにここで恩を売っておけば何か貰えるかもしれないし。……あっカシオペア、僕は梨が好きだからね!」

 根はそんなに悪くないはずだ、多分。