複雑・ファジー小説
- Re: 星憑のエルヒューガ ( No.31 )
- 日時: 2017/01/19 22:16
- 名前: 夕暮れメランコリー (ID: mQVa63/B)
「あそこが食堂でー、なんか居心地いいからってご飯の時間じゃなくても皆たむろしてたりするよ!あ、あそこは図書室。大事な文献とかいっぱいあるけどだいたい皆HALに頼りきりだからなぁ。あとはねぇ」
クラムボンに先導されて僕は施設内を歩いていた。おかしい、確か僕は「自分の部屋に案内してほしい」と言っただけで施設内の案内に関しては全く頼んでいなかった筈だけれど。
「ねーねー、カシオペアってば。ちゃんと話聞いてる?」
「う、うん。聞いてるよ?」
ほんとかなぁ、と疑わしげな瞳を僕に向けるクラムボン。実のところ半分上の空だった、とは口が裂けても言えない。少なくとも本人には。
……だって、箱庭には無かったものがたくさん溢れているから。色んなものに気をとられて話を右から左に聞き流してしまっていても仕方が無いじゃないか。
「まあいいや!話聞いてなかったならなかったでカシオペアにいっぱい、いーっぱい梨奢らせるもんね!」
かぷかぷかぷ。
クラムボンは例の、妙に耳に残るかぷかぷ笑いを僕に向けた。
「つっかれたぁ……」
あの後、クラムボンはきちんと僕を居住スペースに、いつの間にやら用意されていた部屋に送り届けてくれた。疑問に思ったもののHALさんには既に僕の情報が登録されていたし、本部では新人が来ると噂になっていたのなら用意されていてもおかしくはないのかも。
身体に感じなかった疲れが今になってどっ、と溢れてきた。正確な時刻はいまいち分からないけれど、多分深夜。
ホシクイが現れて、近所のヤツが死んで、星憑になって、今ここにいる。
かなり内容の濃い一日だ。この日の事は何があっても忘れない、と言うか忘れられない。忘れろと言う方が正直無理だ。
「うわすごい、ベッドふっかふか……すごい高そうな布団……」
真っ白はシーツに真っ白な布団。マットレスは押すと程よい弾力で跳ね返してくる。こんな見るからに高級そうなベッドで寝た経験とかないぞ、僕。天蓋付きとかではないけれど。
何故か僕はその日、もう戻ることのないであろう箱庭の、自分用だった固いベッドを思い出しながら深い深い眠りについた。
夢は見なかった。