複雑・ファジー小説
- Re: 星憑のエルヒューガ ( No.5 )
- 日時: 2013/08/11 18:40
- 名前: 夕暮れメランコリー (ID: hMEf4cCY)
「いや、えと、あの、改名って色々面倒な手続きとかあるんじゃないですかね……?」
と言うかこの国で改名って認められているのかどうかが心配だ。法律とか政治に関しては僕、そんなに詳しくないし。
「そんなものは後ですればいい」
いやいやいやいや。
「そうだな、じゃあ特別にこの俺が名前をつけてやる」
うわー、超いらねーよその親切心。
……もちろん口になんて出していないけど。
「×××なんてのはどうだ?」
肝心の名前の部分が伏字になっているのは、大体アイツの顔を表現しないのと同じ理由で、単純にその名前が嫌だから。屈辱的に。
「————っあ」
なのに、なにもいえない。
反論だって出来ない。
僕の人生はこいつに左右されてしまうのか。自分の名前すら決められてしまうのか。
この国の科学技術は他国に比べてかなり劣っていることを言えず、大人になるだけなのか。だって未だに蝋燭とかありえないし。
よく新聞(この国には当然、旅人から聞いた「テレビ」なんて言う素晴らしいものはない)とかで「王政反対派のデモ鎮圧」と言う記事があるけれど、僕は母親みたいに反対派に憤りを感じず、むしろ尊敬していた。
————自分の人生投げ打ってでも信念を貫き通したのか。
じゃあ僕にはそんなことが出来るか?答えは即答でノーだ。前にも言った通り僕は面倒くさいことに首を突っ込まない主義の人間なので無理だ。いや、面倒くさいことに首を突っ込まない主義に見せかけた弱虫かもしれない。
そして、心の片隅でずっと変えたいと思っていた。この国じゃなくて、もちろん自分自身を。
今が好奇かもしれない。
さぁ、言うんだ僕。たった三文字で良いんだ。「嫌だ」、その単語を言うんだ。息を吸い込んで————
結論からすると息を吸い込んで、吐きでた言葉はなにもない。代わりと言ってはあれだが、足は動いてくれた。
全速力で駆け出す、いや「逃げ出す」。僕は何で外に出たんだっけ、そうだ卵を買わなくては。
商店街へ差し掛かった時、涙が出ていることにやっと気がついた。アイツの改名宣言に今更ながら悲しくなったのか、それともまた逃げてしまった自分が情けなくてなのか。
「とりあえず、卵————」
まず当初の目的を果たさなくては。僕は商店街の、目的の店へと向かおうとしたその時。
いや、あれは時なんてものではない。「刹那」が相応しい————
数十メートル先に“何かが”現れたのは確認できた。