複雑・ファジー小説
- Re: 星憑のエルヒューガ ( No.8 )
- 日時: 2013/08/20 22:51
- 名前: 夕暮れメランコリー (ID: hMEf4cCY)
この状況で言うのもアレだけど、これは血ではないと思い込むことにした。今ここでこの赤黒い液体を「血」だと認めてしまったら、僕はよくわからないけれど壊れてしまって、全くの別物になりそうだと直感したからだ。
「てかこれ、誰の腕————?」
ここの商店街の人とはそれなりに好友があったので、誰の腕でもあまり気持ちのいいものではないが。と言うか人の腕(もげたやつ)なんて正直、見たくない。
いつの間にか太陽は西へ沈み、月が顔を覗かせ始める時間帯となった。そんなに長くここにいたのか、と思い僕は立ち上がった。
急がなくては、家族が心配してしまう。僕は振り向いて路地裏から逃げ出せないか————特にあの何かに見つからないで済む方法————を模索したが成果は出ず。僕がいた路地は見事に行き止まりになっていて、あの何かにバレないよう商店街を抜け出さなくてはいけないと言う、危険極まりない状態に陥っていた。
こうなったからには、方法はただ一つ。あの何かの隙をついて飛び出し、全力で商店街の出口目掛けて走り抜けることだけだ。
じっと、何かの様子を伺う。顔があるのかどうかすらわからないけど、少なくとも何かは今、僕を発見していない。
たいがいの破壊行為が済んだのか、何かはそれまで縦横無尽に動かしていた触手を地面に下ろした。
————————今だ。
僕は路地裏から商店街の路地(だったところ)に移動した。ここにきてしまうと遮蔽物は建物の瓦礫しかなくなり、正直心もとない。
まだバレていない。まだバレていない。その言葉を何回も繰り返して僕は走り出した。
————ああやっぱり逃げるのか。
————今回ばかりは仕方ないでしょ?
————でもさ、僕が逃げてる何かと戦ってる人だっているんだよ。
「痛っ!」
何かにつまづいて転ぶ、なんてお約束の展開すぎる。もう滑稽としか言い様がなくて笑えない。
と言うか僕は何につまづいて転んだんだ?感触的には肉のような————
「え?」
服をまとったミンチがあった。そして僕は服に見覚えがあった。
きっと僕を追いかけてきたんだろう。
そして目の前によくわからない何かがいたんだろう。
なす術もなくあの触手に叩かれて、人間ミンチになったんだろう。
————体型が豚でも、いくら嫌いだったからと言っても、人が死んでしまったことに納得などできない。
「うぁ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
何かに気づかれるかもしれないのに、僕は嗚咽混じりに叫んでいた。