複雑・ファジー小説

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.9 )
日時: 2014/03/01 20:04
名前: 夕暮れメランコリー (ID: vwUf/eNi)

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「ったく黙れ!アホか馬鹿か脳みそイカれたか!」
 急に誰かに口を塞がれた。普段なら怒るところだが、かえって僕は冷静になれた。
「あーもうしっちゃかめっちゃか!休みだと思ったら呼び出され、仕方なく行ってやったら死体見て発狂してる美少年発見っておかしーだろ!」
「現実を受け止めろ」
 どうやら突然現れた来訪者は最低でも二人いるらしい。
「て言うかさーもうあのホシクイ始末していい?さっさと終わらせて帰って寝たいんだよー」
 どことなく幼さを感じさせる声の方がどうやら僕の口を塞いでいる主犯らしい。
「ああ、思う存分やってこい」
「りょーかい」
 塞がれていた口が開放され、僕はなるべく死体を見ないように移動した。
「大丈夫か?なんか凄い叫び声あげてたけど」
 もう一方の声が話しかける。幼さを感じさせる方はあの何かに向かって走っていた。
「多分大丈夫……だと思います」
 思わず苦笑いが漏れる。正直僕自身にもどうなっているか理解するのは難しい状況だ。
「親御さんは?このあたりに住んでたら生きてる可能性少ないけどな」
「心配しているとは思いますよ。結構暗くなってきたし」
 僕はここで初めて救世主の顔を見ることに成功した。バンダナを鉢巻のように巻いていて、暗い群青色をした長袖の上着を着ている。上着の中は無地のTシャツだった。少しツリ目気味の双眸が僕を心配そうに見ている。言動などから察するに、世話を焼きたがるタイプなのだと分析した。
「でもな……「箱庭」だと翼使えないしな……見つかった瞬間捕まるし。“また”監獄生活なんて嫌だし……」
 “また”?一度何処かで捕まったのだろうか。それにしては囚人服とか着てないし、もしかして釈放された後とか。
 僕がくだらない推論を並べていると、救世主のもう一方が叫ぶ声が聞こえた。どうやら助けを求めているらしい。
「シグナル兄ちゃん!ちょっと援軍入ってよ、一人じゃ無理!」
「援軍って言ってもなぁ……お前俺の力分かってんのか?武器を作り出すことは出来てもそれを完全に使い切ることは無理なんだぞ?」
「じゃあ銀の矢!あれならいいでしょあれなら!」
「『銀の矢引くの疲れるんだよねー』とかほざいてたの誰だっけ?」
「それとこれとは別物でしょーが!ほらほら早く銀の矢生成して!エーテル溜まってるヤツ全部ぶっぱなして打てばあのホシクイもくたばるでしょ!」
 ちょくちょく解らない単語が混ざるその漫才は、どうやら何かの正式名称が「ホシクイ」だと言うことを知らせてくれた。
「て言うか兄ちゃんクラムボン呼んでこい!超特急で!」
「呼んだとして、連れてくるまでの時間は少なくとも五分はかかるぞ?それまでにお前が生存してるかどうか心配なんだが」
「————わかったよ。じわじわあの「ホシクイ」をいたぶりゃいいんだろ?」
「地味に怖いこと言うなよ……」
 どうやらその「ホシクイ」とやらに苦戦を強いられているらしい。僕に出来ることなど何も無いので、しばらくここにいさせて貰う。足が震えちゃって立てそうにないし。




 ————助けたいの?
 ————うん、助けたい。でも無理でしょ?
 ————“今の君じゃ”無理だね。
 ————どうせ逃げるから?
 ————いや、君が逃げない勇敢な人だったとしても一般人じゃあれ、倒せないって
 ————ではどうしろと?






 ————簡単だよ。“星憑になればいい”のさ。