複雑・ファジー小説
- Re: ※救世主ではありません! ( No.10 )
- 日時: 2013/08/25 21:17
- 名前: 朝陽昇 ◆5HeKoRuQSc (ID: Drat6elV)
救世主とは、人類を救う存在のことらしい。
でも、実際に人類を救う、つまり世界を救うことは可能なのかと思ってみれば、無理じゃねーかと思う。
人生、始まるも終わるも自分でコントロールできんし、救世するにもそれなりの事情のある世界がなくちゃ活躍さえさせてくれない。
例え願ったところで、助けて欲しいと救世主の登場を待ちわびたところで、一体何になるかといわれれば、おそらく現状は何一つ変わらないだろう。
で、要するに言いたいことは、自分の力で何とかしやがれってことを暗黙の内に、それが基本で世界は出来てるんじゃねぇかと。
都合のいい存在はそんな毎回来るわけねぇ。期待されててもどこかでヘマすりゃそこで終わりだ。先ほどまでチヤホヤしてたクセして、すぐに手のひら返して嘲笑う。そういう風に、出来てしまってる。
だから、ただ単純に神様お願いです、と困ったときは神様頼みをしている連中が俺は許せない。何一つとして自分で背負うこともなく、覚悟もなく、ただ神に祈るだけ。自分じゃどうすることも出来ないからだ。
でも、俺は違うね。俺はそんな無様な存在にはなりたくない。むしろ、逆だ。
どれだけ憎まれようが、どれだけ蔑まれようが、神なんて曖昧なものに頼まないし、救世主だって望まない。
俺が願ったところで、何一つとして神様やら救世主は救ってくれたことがない。俺のような、どうでもいい存在はこの世界に居ても居なくても一緒なんだと。
救世主という存在そのものが、俺のような存在を否定しているような気がするから。
だから、俺は救世主が嫌いになった。いつの日からだったか、それはもう覚えていないけど。
目が覚めた。
夢を見てたわけじゃねぇけど、何か結構寝てた感じだ。よくある展開で、漫画やアニメに戦闘した後、急激な疲れで何日間も寝込むってのがあるけど、もしかして今その状況か?
よく周りを見渡してみると、場所は豪華な客室のようだった。といっても、広さは俺ん家よりも遥かに広い。この部屋の間取りだけで俺の家の坪は余裕で越されるだろう。比べるものがおかしい気もするけど。
で、その中にあるこれまた豪華なベッドに俺は寝ていた。何だこのふわふわな感触。今まで体験したこともないような、とにかくふわっふわしている。どういう生地使ってんだこれ。
「いっ……!」
体を少し起こそうとすると、痛みが腹部に響いた。一瞬だったが、強烈な痛みが鋭く奔る。
あぁ、そうか。この痛みで我に戻ったけど、俺って今、異世界にいるのか。このふわふわなベッドも、現実のものじゃなくて、別の世界のものなのか。
——それで、俺は今、生きてんのか。
「——目が覚めやがりましたか」
「ってうおぉぉおおお!! ぉぉ、お! い、いぃ、いてぇぇええええ!!」
突然、ベッドのすぐ隣から何者かに声をかけられて俺の腹が、腹から、血が、あぁ、あああ……!
「問題ねぇです。そこまで気にするほどの重傷でもあるまいし、ぎゃーぎゃーと鬱陶しい喚き声を出されるこっちの身を考えてみると、慰謝料ぐらい払ってもいいんじゃないかと思いやがってください」
「おま、え……! どっ、から……現れた……!」
「ずっとここにいましたが、それさえも気付かないのならとんだ間抜けな野郎ですね。いっそ傷口が完全に開いて死んでしまった方が楽なんじゃねぇですか?」
やたらと言い方に棘がありまくるな……。腹部からの激痛はこいつの言ったようにすぐに治まっていった。どうやら一時的なものらしい。けど意識飛びそうになるほど痛かったぞクソッタレ。マジでやめれ。
と、ここでこいつの容姿を落ち着いて確認する。
フリフリの黒を基調としたエプロンドレスにヘッドドレスやら何やら……簡単に言えばメイド服ってやつ(?)を着ていた。それを着ているということは、おそらくここのメイドなのだろうと思う。……とか普通に言っちゃってるが、結構テンションがやばい。異世界って認めてるところがあるから何とかなってるけど、メイドとか初めて生で見た。
ほのかに紫色をした首の根元辺りまでしかない髪がふんわりヘアーでまとまっている。その上にちょこんとヘッドドレスをつけて、前髪は眉毛辺りしかない。
見た目的に、20前後といった年頃の女に見える。無表情で無愛想でも整った顔が年上の風格をどことなく漂わせているのだろう。
「……なんですか、じろじろ人の顔を見て。正直に申し上げてやると、めちゃくちゃ気持ち悪い。いや、キモい。その顔をぶちのめしてやりたくなるので、そろそろ顔を背けてください」
……クソ口が悪いな、このメイド。しかも無表情でそんな言葉をづけづけと言われるもんだから、こちらのメンタルが結構削られる。そして何故気持ち悪いをキモいと言い直した。同等の意味だろ、それ。
とりあえず目線をメイドの顔から外し、傷が危うく開いたかと思った腹部を労わりながら不本意にもメイドと話を続けることにする。
「で……ここはどこだよ」
「エクリシア王国の中枢部分に位置する大王国の一つ、ティファリア王国のティファリア城内部、客人の間その21の一つでありますが……何か問題でも?」
「いや別に問題はないけど! でも強いて言うなら問題あるけど! ていうかどんだけ客室あるんだよ!」
「後半は少々ジョークを入れましたけど……何か問題でも?」
「もしかしてケンカ売ってる!?」
だああ、また声を張り上げたら腹に痛みが……! クソ、俺がこんな状態でなければ、このメイドめ……俺が徹底的に指導してやるわ!
と、心の中で色々考えつつ、腹部を押さえつつ、会話を続ける。
「結局、俺はどうなった? 何かよく覚えてないんだ」
「出来の悪い頭はこれだから……まあいいでしょう。教えてやるから、飾り物の耳を全集中させて聞くことです」
うん、色々ムカつくけど、まあいいや。今はもういいよ。うん。
メイドが話した内容は単純な流れだった。
魔物を倒した俺は腹部の損傷が激しく、すぐに治療を行う為に城に戻った。で、半日寝た程度であっさり回復しやがりました、と。
……全然何日も寝込んでねぇ! それどころか一日も経過してねぇ!
「……毎度毎度、その気持ち悪い顔をしていると思ったら酷く残念な人のように思えてきました。何だか失礼なことを言って申し訳ありま——」
「それで謝られる俺の立場は何だッ、ぁ、あ、ああああ! うああああ! いてぇぇええええ!」
こ、こいつ……! わざとやってんのか、もしかして。だとしたら相当タチが悪いぞ。俺がつっこみを入れること前提で話していやがったらマジで、とんでもない悪女だわ。
息切れしながら汗だくで腹部を押さえる俺とは違い、全く表情を変えようとしない無愛想なメイドはただ突っ立って俺を見下している。わけわかんねーよ、この状況。
「はぁ、はぁ……まあいい。で、俺は無事生きてるわけで……そうだ、あの小僧呼んでこいよ」
「小僧? 誰のことか全く存じませんが、貴方如きに小僧と呼ばれるとなると、その方もさぞ悔やまれることでしょうに。……それで?」
「お前は嫌味一つ口に出さずに物事を喋れないのか……? ったく、あの眼鏡をかけた奴だよ! 俺をこの世界に召還したとか言った奴だ!」
「あぁ……なるほど。その方は——」
と、メイドの言葉を遮ってドアが開く音が部屋の中に響いた。
それから部屋の中を闊歩する音が聞こえる。先ほどまで無愛想を貫き通していたメイドが俺から目線を変えて入ってきた者に向けると、数秒もかからずに頭を下げてお辞儀をした。
「メルティー、ご苦労さま」
どこかで聞いたことのある声だった。ベッドに寝転んだ状態だと、メイドが邪魔して見えない。
メルティー、というのはおそらくこのメイドの名前だろう。無愛想で毒舌のクセして可愛らしい名前しやがって。
そういえば、このメイド、名前も名乗らなかったなこの野郎。ま、それは俺もだからどうでもいいけど。
次第にその足音は近づいてきて、ようやくメイドが退き、その姿が俺の目に映り込んだ。
「目覚めたみたいね?」
そこに立っていたのは——えらい美人だった。
ていうか、正体はフードを被ってた少女だ。そいつがちゃんと綺麗な服を着て、女の子って感じになってる。結果、その可憐な顔も一層際立っているというわけだ。
更になんといってもこのボディーライン。出ているところは出ているそのボディーにこの美しさ。現実では見たこともないような美人が今目の前にいるわけだ。
で、その美人が俺に声をかけてきた。これはあれか、俺に助けられて惚れたってことか? もしかして、このまま俺とベッドでイチャイチャと——!?
一つ咳払いをし、声を整える。よし、いける。出来るだけ愛想のいい表情と声で言う。
「ああ、目覚めたよ。怪我はなかったかい? 何より俺は君の為に——」
「何であんたが私の宝石持ってたのよ!!」
「…………はい?」
まあ、素敵。と言われ、柔らかい笑顔でラヴコールされるはずが。代わりに凄い形相で怒鳴られていた。
俺はこいつの命を救ってやったはずなのに、何故か責められていることに数秒経ってようやく気付いた。