複雑・ファジー小説

Re: ※救世主ではありません! ( No.2 )
日時: 2013/08/25 12:04
名前: 朝陽昇 ◆5HeKoRuQSc (ID: fqLv/Uya)

 世の中の人間は俺のことをさぞかし滑稽だと感じるだろう。
 誰にも分かるわけない。分かるわけがないんだ。
 別に理解してくれなんて頼んだりはしないし、これからも俺はこの性格のままで居続けるだろう。
 何も、困ることはない。何故なら、それで満足しているから。俺はこういう人間なんだと、開き直ってさえいるから。

 他人がいじめられていたら、勿論見捨てる。標的が俺に代わりたくないからな。
 友達が助けを呼んでいたら、勿論知らないフリをする。面倒だからな。
 クラスメイトと行事で一致団結を叫んでいたら、勿論心の中で断固として拒否する。適当にやること終わらせて居ても居なくても関係ないように振る舞い、さっさと帰りたいからな。

 自分でもクズだと思う。周りに合わせて、内心はくだらないとバカにしてる。
 それでも、俺は間違っているとは思わなかった。どれだけクズだと理解してたとしても。
 家に帰れば、"あの世界"があったから————





「何で、いなくなったんだよ……!」

 パソコンの目の前に項垂れる俺。
 画面は既に『LOAD OF BRAVE』の世界が広がっている。だけど、フレンド欄の中にあるはずの"タク"という名前が消えていた。
 どういうことだよ。連絡をしようとしてもまるで返事が返ってこないし、連絡が取れなくなってからもう一週間は経つ。
 そんなに俺がキレたことがムカついたのか? 確かにそんなことは今まで無いっていってもおかしくなかったけどさ。俺がそういう人間だってことは既に気付いていたはずだ。だから一緒にツルんでたんだろ? なぁ、おい。聞けよタク。

「どこにいったんだよ……!」

 頭を抱えて悩んでも、何も浮かんで来るはずもない。
 だから俺は既に調査を開始していた。あいつがどこに行ったのか、どうして消えたのか。
 一度『LOAD OF BRAVE』がサーバー不調で一時運営をストップしていた時、そういった場合の為にも連絡手段として電話番号を教えてもらっていた。俺が携帯を持っていないということもあって家の電話番号で、タクが失踪してから三日後にかけた。
 もしもし、と電話に出たのはタク本人ではなく、タクの母親だった。聞いてみたらタクは家にもいないらしい。
 外出した形跡も無く、どこかに消えてしまったかのように帰って来ていないんだそうだ。タクの母親は泣いていた。
 何度か電話した経験があり、母親が出ることもあって多少面識のあった俺だったが質問攻めが始まる前に早々と撤退した。

 その他、様々なことを調べてみると、色々と分かったことがある。
 タクは誘拐されたわけではなく、外出せずに失踪したということ。靴もちゃんとあるし、それらしい形跡も見当たらないらしい。
 警察には既に届出を出しているということ。それから一週間後の現在でもタクは見つかっていない。
 全く関係ないように思えた『LOAD OF BRAVE』のフレンドリスト欄からタクの名前が消えていたということ。あれは故意でやらなければ削除することは出来ないが、俺のフレンドリストの中からもタクの名前は存在しなかった。
 つまり、タクはゲームの中でも失踪したことになる。

 俺の単なる仮説に過ぎないが、ひょっとしてタクはゲームの中で何かに巻き込まれたんじゃないかと思い始めてきていた。
 パソコンの画面前で突っ伏す俺はそんなことは有り得ないと思いながらも考える。タクはゲームのことで何か気になることを言っていなかったか。
 そこで考えついたのは、"あのクエスト"。

「……あの胸糞悪いクエスト、もしかして一人でやったのか……?」

 もしそうだったとしても、失踪とは何の裏づけにもならない。そんなことは分かっているが、調べずにはいられなかった。
 パソコンでインターネットを開き、すぐに検索をかけた。胸糞悪いクエスト名だったから覚えている。
 結果は、何も無い。どこにもそれに該当しそうなものはなかった。多くは『LOAD OF BRAVE』と関係のないものばかりだ。

「クソッ……やっぱり、違うのか……?」

 夢みたいな話だよな、と心の中で自分を笑う。
 ゲームの中に巻き込まれた? バカかよ。それこそ夢見すぎだぜ。第二の世界としては見れるけど、まさかこちらの現実にまで支障をきたすものではないだろ。たかがオンラインゲーム如きで。
 再びゲームの画面に戻る。ゲームの中に手がかりなんてあるはずない。そんな風に思いながらも何故か俺はゲーム画面に戻った——その時、

ピコンッ。

 音が鳴る。それと同時に、俺の心臓の音も一際大きく聞こえた。
 画面右上を見る。そこには、"タク"と書かれた個人チャットに繋がるそれが出ていた。

「ッ、え、ぁ」

 驚きのあまり、声が出ない。探していた当人からまさか個人チャットが来るとは。あれだけ探しても検索にかけても見当たらなかったタクが存在している? そんなバカな。マジで?
 マウスを持つ右手が震える。心のどこかできっと俺はタクを見捨てていたのかもしれない。あいつは救世主とやらが好きなんだろう。だからあんなクエストをやろうと持ちかけてきたんだ。だから罰があたった。……そういうことにすれば、俺は無関係じゃないかって。
 けど、タクの方から来た。まるでそれを許さないと言っているかのように。
 唾を大きく飲み込んだ。今回はワクワクなどしていない。今度こそ、緊張しまくってる。心臓が飛び出しそうなぐらい、もうやめてくれと叫びたいぐらいに。

「はぁ、はぁ……」

 息が乱れ、ようやくカーソルがそこにたどり着き、クリックを押すまで何分かかったのかというほど長く感じた時間を空けて、開いた。

『"タク"さんからクエスト《救世主になってみませんか?》の招待が送られました。参加しますか? YES/NO』

 心臓が跳ねた。
 あのクエストだ。何の説明もなしに、突然招待? ふざけるなよ。説明しろよ。
 無心に手を動かし、文章を作り上げていく。途中で何を言おうか迷った時もあったけど、とにかく文句を言いたかった。

シュン:お前一体何してたんだよ
※エラーです。

 ……は? 何だこれ。
 もう一度繰り返す。

シュン:何してたんだ
※エラーです。

 わけがわからない。どうしてエラーになる。フレンドじゃなくてもチャットは出来るはずだぞ。ボイスチャットはフレンドにならないと出来ないけど。
 今までこんなあからさまにエラーを表示されたのは今までずっとやってきて初めてのことだった。

「ふざけんなよッ!」

 声を荒げてデスクを思い切り叩く。痛い。手のひらがヒリヒリする。
 痛みのおかげか、冷静に物事を考えられるようになった。そうだ、よく考えろ。これは手がかりだ。このクエストは胸糞悪いけど、今このタイミングで失踪しているはずのタクから送られてくるって、絶対何かがあるはずだ。
 俺の仮説があっていたのかどうかは分からないけど、試す価値は十分ある。これで何も無かったら、もう諦めよう。タクはいなかったと考えるしかない。

「よし……!」

 唾をまた飲み込む。でもさっきほどじゃない。緊張とかよりも、やってやろうと思ういきり立った気持ちが俺を後押しした。
 マウスを動かし、YESをゆっくり、しっかりとクリックした。
 瞬間、画面が一気に真っ暗になった。

「は? え? ……あぁっ!? やっぱりバグかよチクショウ!! ふざけんなよ! タチの悪いイタズラしやがっ——!」

 真っ暗になったパソコンの画面を思わず両手で左右の末