複雑・ファジー小説
- Re: ※救世主ではありません! ( No.5 )
- 日時: 2013/08/15 13:51
- 名前: 朝陽昇 ◆5HeKoRuQSc (ID: Drat6elV)
床に敷かれたレッドカーペット。天井で光り輝くシャンデリアの数々。そんな広すぎて一人だと迷子になりそうな城内。
現実離れした数々を見た後、俺はどうしているのかっていうと。
「乱暴な扱いをしてしまって申し訳ありません……。しかし、まさか救世主さまの方から来ていただけるとは思ってもみませんでした!」
「だからお前さっきから何言ってんだよ」
豪華な一室にて眼鏡の少年と向かい合わせで椅子に座っていた。
笑顔で俺をずっと見つめてくるこいつは一体何なんだ。俺より年下っぽいが……着ている服といい、この豪華な個室や屈強な兵士を命じて俺を捕らえることが出来たり、何か偉い奴っぽい。
この部屋の中にも見るからに良質な木によって作られた本棚の数々や少年の後ろに見える豪華なベッドが目に入る。どうやら客間ってわけでもなさそうだ。
「大丈夫です、ここは僕の部屋なので、気にせずお話をしていただければ!」
「って、ここお前の部屋かよっ」
マジか。やっぱこいつ結構偉い奴なのか? やたらと豪華な部屋だぞここ。
「きっとまだ混乱していらっしゃるんですよね? 分かります。何故なら、貴方を"異世界から召還した"のはこの僕なのですから!」
「おいおい、何言ってんの? そんなわけ……」
ないだろう。ないよな? ない、はず……だよな?
口では言ってても、実際のところ焦っていた。今までの体験から撮影だとか夢の中だとか、現実逃避を繰り返してきたが、それも無理がある。もしかすると、これは全て"現実"なんじゃないかって思い始めてきていた。
かといって、夢や撮影の可能性を捨てたくなかった。撮影でなければ、俺の頬についていた血糊は本物の血ってことになるし、肩に斧がぶっ刺さって血が噴出したナイフ男のあの血は本物だということになる。
これが全て夢で、後もう少ししたら帰れると願わなければ俺はどうすればいいか分からなくなる。帰る見込みも無くなるのだ。
だけど、それにしてもだ。これ全部、現実味が無さ過ぎるだろう。
「突然のことで申し訳ないのですが、"救世主さま"に是非とも力を——」
「うるっせぇ! 俺は救世主なんかじゃねぇし、お前のご都合で勝手に召還したことにするんじゃねぇ!」
椅子から立ち上がり、少年に指をさして言ってやる。
どれもこれも受け入れていたら、もうどうしようもなくなるじゃねぇか。俺はそんなものになってやる気はないし、ここが異世界とかまだ完全に信じられるわけもない。
「僕が書物の中から見つけた異世界から召還する魔法を用いたのが先日のこと。そして今日、貴方さまが来てくださった! その見慣れない服装、只者ではない風格。どれをとっても救世主さまとしか言い様がありません!」
「だからお前、救世主って言葉をやめろ! 第一、俺がここに来たのは某マウスのぬいぐるみを着た人を待ち望んでいたわけで……。……いいからさっさと俺を帰せよ!」
「か、帰せと言われても……」
眼鏡のズレを戻しつつ少年は困ったような表情を浮かべた。何だその表情は。そうしたら何でも許してくれると思ったら大間違いだぞ。
「召還出来たんだから、戻すことも出来るだろ! ほら、今すぐやれ!」
「そ、そんな……! 困ります! 僕は、もうこれ以上失敗できないんです! お願いします、救世主さま! "救世主"になってください!」
「はぁ? お前何言って——」
バンッ、とドアが開く音で俺の言葉は遮られた。
それとほぼ同じくして兵士が部屋の中に駆け込んできた。
「で、伝令です! 街の近くに魔物が発見された模様です!」
焦った表情をして兵士が意味の分からないことを告げだす。今度はお前かよ、頭がイカれちまったのは。
「そんな! 魔石結界はどうなっているのです!」
「何故か分かりませんが、効果が著しく低下しているようです!」
「もしかしたら、召還魔法の影響で魔石の魔力も吸い取られた……?」
深刻な表情をして眼鏡少年が呟いている。内容はわけわかめ。何言ってんだよ、それってやばいのかよ。
「はは、おいおい。お前ら一体何のアニメごっこだよ。俺も混ぜろよ」
「……騎士団は各地の王族に伝令を伝えに行っているし、王も不在。こんな時に限って近隣に魔物が出るなんて……!」
「……だから、何のアニメごっこだって、言って…………。おい、それって、まずいのかよ……?」
「はい……。街は魔力をこめた魔石によって結界が張られ、それにより魔物は街の中に侵入できないようになっているのですが、今はそれが低下している状態。下手をすれば魔物が街の中に入ってくる恐れがあります」
何だよそれ。大分やばいんじゃねぇのか。
……これは夢だよな? 魔物? バカか。そんなものいるわけないだろう。もしいたとしても、俺には関係ないけど。関係ない、はずだけど。
「や、やばいんだったらさっさと何とかしろよ!」
「何とかできる場合と出来ない場合が……」
「そんなこと言ってる場合か! (俺に)危害があったらどうするつもりだ!」
「……! 確かにその通りです。(民に)危害があれば、僕は王や姫様、そして……お父様に顔向けが出来ません。きっと上手くいくはずです!」
「そうだよ! だからさっさと魔物とやらを退治し——」
「魔物を退治してきてくれるんですね! さすがは救世主さまです!」
「……あ? いや、だから。え? 何言ってんの? 俺はここから応援しとくからさ。だから……」
「こっちには救世主さまがいる! 絶対に大丈夫だ!」
「お前バカなの!? マジで頭おかしいんじゃねぇの!?」
話がおかしい。何がどうなってる。
「頑張ってください! 救世主さま!」
「だから、俺は救世主じゃねぇぇええ!」
兵士にガッチリと両腕を掴まれ、部屋の外へと連行された。
ドアが完全に閉まり、少年ただ一人が部屋に残った。
「……僕は、間違っていないはずだ。召還は、成功したはず。あの人は、きっと……救世主だ、そうに違いない……」
頭を抱えて、少年は小さく、誰にも聞こえないように呟いた。