複雑・ファジー小説

Re: 「人間」を名乗った怪物の話。 ( No.1 )
日時: 2013/08/20 11:29
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: I/L1aYdT)

1.

ある夜。月明かりが煌々と照らす裏街道の中、先を急ぐように歩く、闇にまぎれる青年が一人。

——否。そのあとを、小走りについて行く小さな影が、もう一人。

-*-*-*-

コツコツコツ……

履いている、買ったばかりの新品の革の靴が、まだ固い靴裏で地面を叩く。
静かな夜に、俺の足音はよく響いた。
……しかし、その一定のリズムを邪魔するように後ろからもう一つの小さな足音が、追いかけてくる。

トテトテトテ。

ハァ、と俺は小さくため息をついた。
一度立ち止まる。すると、後ろの足音も止んだ。
振り返ってみる。

「…………」

「…………」

後ろには、やはりあのガキ——むかつくくらい無表情な少女が、ポケッ、と立っていた。

俺は再び歩く。

コツコツコツ、

トテトテトテトテ、

もはや我慢が出来なくなって俺は振り向きざまに言った。

「だからさぁ、なんで付いて来てンだよ、お前は!」

ピョコン、とその場で止まった少女は、やはり無表情なまま、それでいてこの質問が心底心外だ、と言わんばかりにあっさり答えた。

「付いて行きたいから付いているだけです」

そう言った声は、まるでそのまま風の中に溶けてしまいそうなほど儚い、美しい声だった。
……言っている内容は俺にとっては心底不可解だが。

「あ、気にしないでください、付いて行くだけで何もしません」

「気にするなって……普通に気になるだろうが」

ああ、と俺は先ほどの行為を心底後悔した。下手な情けなんかかけるべきじゃなかった。俺は旅人だ、ヒトの心配をする暇があれば自分の安全を確保しなければならない職業なのに……。

俺はまた、盛大にため息をついた。

これは。

俗にいう。

『懐かれた』、というヤツか?

……ただでさえ俺は人付き合いが嫌いで、ガキのお守りなんてその真骨頂だというのに。

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