複雑・ファジー小説

Re: 「人間」を名乗った怪物の話。  ( No.113 )
日時: 2013/08/30 20:29
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: A/2FXMdY)

1-12.

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それからは、もう数分とも立たなかっただろう。
俺とモードで黒ずくめの残りの部下をあっさり倒し、ナルシーの応戦をして黒ずくめを拘束することに成功した。

俺はヒトを殺す趣味はないので(あまりに危害を加えてきた場合は別だが)、部下たちは全員気絶させるだけにしておいた。
しかし黒ずくめだけは気絶させず、俺たちはひとまず尋問することにした。

「あんた、私やティアのことを貴重な研究対象って呼んでたけど……どういうつもりだったのよ?」

まずモードがそう尋ねると、黒ずくめはうなだれながら答えた。

「我々が所属している研究機関のことだ。……我々の期間では、『異世界転移』すなわち世界と世界を移動する方法を研究している」

また『異世界転移』ときた。
思わず俺は言った。

「なぁ、異世界を移動できるとか、そういうのってそんなに重要なのかよ?」

すると黒ずくめは馬鹿にしたように鼻で笑い(縛られている状態でやっても全く様にならない)、

「あたりまえだ!この世界より、さらに技術の優れた異世界に行ってもっと情報を集めれば、さらなるこの世界の発展につながるのだ。そう、我々は立派な愛国心から成り立つ組織なのだ!」
「あらそう。じゃぁこのまま王城の警備団体に突き出しても大丈夫そうね、愛国心から成る正式な団体なんだし」
「え、いやそれは……」

モードに言われた途端、そいつはいきなり勢いがなくなった。
……やはり、彼の所属している『研究機関』とやらは異端のようだ。

ちなみに、そんな様子の黒ずくめを、ティアはモードの後ろからジトー、とした目で睨み、ティムはなんとなく哀れそうに見つめ、ナルシーは完全に無視してティムを眺めていた。黒ずくめ本人にとっては居心地の悪いことこの上ないだろう。

「なぁ、もう面倒くさいからこのまま放っといて帰らないか?」

俺はそう提案した。

「もうだいぶ暗いし、俺たちもそろそろ戻ったほうがいいんじゃないのか?」
「んー……それもそうね。あなた、ニコルのおかげで命拾いしたわね」

モードは最後のほうは黒ずくめに向かって言った。
なんというか、本当に女は怒らせると恐ろしい。

というわけで、俺たちはその場をゾロゾロと去って行った。
黒ずくめ?もちろん縛ったまま放置しておいたが。
……気絶した部下は縛ってないから、起きたら勝手に逃げるだろう。

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「おかえりなさい」

ナルシーの屋敷に帰ると、アンヌがまずそう言って出迎えた。

「お前の屋敷じゃないだろうが」
「ヒトが帰ってきたらまずそう言うべきだと本に書いてありました」

だからなんの教訓が書かれた本なんだよ。

「ただいま帰りました、アンヌさん!」
「ただいま。アンヌ、リストのってこれでいいのかしら?」

続いてナルシーとモードが入ってきて、
その後にちょこちょこと続いてきた少年少女に、アンヌは首をちょっと傾げた。

「ああ、アンヌ、こいつらは……」

俺は事の詳細をアンヌに述べた。

「そうでしたか。ティアさんも異世界から……大変でしたね」
「そうでもない。こういう人たちと会えたから」

なんだろう、歳の近い少女同志……だというのに、お互いに表情が乏しい。

(これくらいの年ごろの女ってみんなこんな感じなのかよ?)

「ニコル、何考えてるのかは特定できないけど、たぶんそれは違うわよ」

なぜかモードに苦笑いで否定された。……わからん。

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それから、材料を机に広げ、それらと本の内容を見比べていたアンヌだったが、しばらくすると急に立ち上がった。

「これで材料はすべてそろいました。あとは条件だけです」

おお、と、ちょっとした歓声が上がった。

「この材料でよかったのか?素性が怪しそうなモノもあるが」
「問題ありませんよ。れっきとした本物でしたから。私が確かめました」

どうやって確かめたのやら……。

「じゃあ、これで私もティアも、元の世界に帰れるの?」
「はい、もうすぐ帰れます。あとは、時間です」

時間?
俺が疑問に思っている間にも、アンヌはやはりスラスラと答える。

「儀式は、異世界と最も繋がりやすくなる新月の夜に行うのです。場所は基本どこでもいいですが……ナルシーさん、この屋敷で毎晩月が見える場所はありますか?」
「ええ、もちろん!この屋敷の構造上、ベランダでもバルコニーでも、どこでも月は見えますよ。吸血鬼たるもの、美しく芸術的な月は一族の象徴としても過言ではありませんから!」

ふと、そこでティムが言った。

「えっと、新月の夜って……もしかして、結構すぐじゃないかな?」
「はい。明日ですから」

あまりにサラリとアンヌが言ってのけたので、この場にいる全員が一瞬、反応に遅れた。

「え、明日!?」
「……随分ご都合主義だな。そんなすぐだったとは」

半ば飽きれながら俺が言うと、アンヌは真面目に答えた。

「早くていいに越したことはありません。異世界によって、もしかしたら時間軸が異なっている可能性もあるんです」

その一言で、俺たちはハッとなった。
それもそうだ。もしモードやティアの世界が、この世界よりよっぽど時間の進む速さが速かったりすれば……。
下手をすれば、彼女たちは二度と大切な仲間や家族と会えなくなるかもしれない。
それだけは避けたいところだった。

「……いよいよ真面目な話になってきたわね。迷惑かもだけど、明日までは手伝ってちょうだい」
「ごめん。お願いします」

モードとそしてティアは改めて俺たちにそう言った。

「大丈夫ですよ、私たちがお二人を無事元の世界までお届けします」
「女性を助けるのは紳士として当然ですから!」
「家族や仲間と離ればなれのままなんて、悲しいからね」

アンヌ、ナルシー、ティムはもちろんそう言った。

「じゃ、また明日の夜に集合か」

俺がそう言って、この日は解散となった。