複雑・ファジー小説

Re: 「人間」を名乗った怪物の話。  ( No.116 )
日時: 2013/08/30 22:22
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: A/2FXMdY)

1-13.

*???side*

「やれやれ、だね」

オレは目の前の惨状を見下ろして、ついつい独り言をボソッと言った。
左手にはめた、ピンクのうさぎのパペットをゆらゆら振りながら(オレのちょっとした癖)、オレは目の前の、縛られた黒ずくめの男と目線を合わせた。

「ひっ、」

ビクっ、と男は怯えたようにオレを見る。

「全く、史上最強の馬鹿じゃない?なーんであんな、盗賊みたいな手段でやるかなー?」

パペットを男の顔の前で振りながらオレは、ちょっとふざけた感じで言って見せた。
ほら、このパペットすごいかわいいから、説教の最中でもこうすれば安心してくれるかなーと思ってさ。
なのに、目の前の男は相変わらずオレを、恐怖の眼差しで見ている。それも、ガクガク震えながら。

目線を合わせるためにしゃがんだせいで、オレの肩にひっかけただけの上着が少しズレた。

「おっと」

オレはパペットをはめていない右手でそれを直し、立ち上がる。
とりあえず、いくら説教しても反省しなさそうだったので、オレはそいつに簡単に言った。

「とりあえずさ、上司のオレの命令聞けないんだったら、どこか別の部署に行ってもらいたいね。研究機関って、いろいろなところに点在してるんでしょ?」

すると黒ずくめは心底絶望を受けたような顔をして、オレの足にすがりついた。

「そ、それだけはやめてください!この部署を外されたら、わたしにはもう行くあてが……」
「へえ?死んじゃうんだ?……ていうか触らないでよ、オレ恋人以外のヒトに触られると吐き気がするんだ」

慌てて男は飛びのいた。
まったく、オレのかわいい彼女でもないのにベタベタ触らないでほしいね。まぁ今はいいや。

「そもそも、最初からオレはニコルたちを遠くから『観察するだけでいい』って命令したんだよ?出世欲に目が眩んでその命令を破ったのは君。おわかりかな?」
「……ぐ、しかし……」
「デモもシカもないね。話は終わり。じゃ、君の『部署』は変えてもらうように上層に報告しておくから」

オレはそいつに背を向けて、灯台から続く道を歩いて行った。
後ろからなんか、断末魔みたいな汚い声が聞こえたけどどうでもいいや。

-*-*-*-

しばらく歩くと、路地の暗がりから、どこからともなく急にフワッ、と現れてオレの腕に細い腕をからませてくる女——ものすごい美女が現れた。
知れずとオレはちょっと苦笑に似た、でも嬉しい笑みがこぼれる。

「早いなー、まだ勤務中なんだけど」
「いいじゃないの♪暇だったしー」

言わずもがな、オレの恋人。
オレは彼女をアイシャって呼んでいる。本名はもうちょっと違うけど……。ちなみに、オレ以外の人が彼女をこの名称で呼んだら即座に戸籍から名前が消えるので、そのあたりよろしく。

(って、オレは誰に向かって言ってるんだ)

そう一人ツッコミでふざけていると、アイシャが言ってきた。

「あの男、クビになっちゃったの?」

オレの左手にはめたパペットを撫でながらそう尋ねる。
ちなみに、このパペットはアイシャがオレにくれたものだ。
オレにとっては最高のプレゼント。左手が隠せる、という利便性もあるけど、やっぱり男としては好きなコからもらったプレゼントは何に差し替えても嬉しいでしょ?
オレはアイシャの質問に答えた。

「ま、クビと同じ感じかなー。前から結構問題起こしていたもの、あの男」
「あらら。残念ねー、あの人、あなたに結構全力で従ってたのに」
「ただの出世欲だよ。ああいう金のためならなんでもする奴って、見ていて吐き気がする。つまらなさすぎるし」

オレが子供のように、少し退屈そうに言うと、アイシャは「こら、仕事なんだから真面目にやりなさい」と笑って注意してきた。

ふと、アイシャは真顔に戻ってこう尋ねてきた。

「あの人……『ニコラウス』さんは、」
「ニコルでいいよ。アイシャだってオレの彼女なら、赤の他人でもないんだし」
「じゃあニコル君。彼、様子は大丈夫そうだったの?」

オレは笑って答えた。

「問題どころじゃないね。全然強いよ、あいつ。不審者なんか、雑魚だったら何匹いても相手にすらならないだろうね。さすがオレの——」

そこで、アイシャは人差し指でオレの唇をふさいだ。

「誰かが聞いてるかもしれないのに、迂闊ねーホント」
「む、ごめんって」

パペットを顔の高さに持ち上げて、ペコっ、とお辞儀させると、アイシャはこらえきれなくなって笑い出した。

「それにしても……気になるなー」

ついオレがそう言うと、アイシャは疑問気に見上げてきた。

「あの金髪の女の子だよ。ニコルに同行することになったらしくてさ」
「あら、そんなかわいらしい連れができたの?」
「うん、いつの間にかね。害はなさそうだし、普通にいい子そうだったからよかったけど」
「……むぅ、あたしがいない間に女の子とおしゃべりしてたんだ?」

アイシャは少し不機嫌そうにむくれた。

「ただの女の子だよー、それにオレがアイシャ以外の女についてくわけないでしょ」
「そうだけどね」

……ま、こんな感じで、オレとアイシャは夜の闇が降りていく街中を歩いて行った。

オレの名前?とっくの昔に『ある大切な人』にあげちゃったから、今はもう何もないよ。
あえて呼び方を言うなら……『銀髪の男』で、だいたいオレだってわかるかな?
ククク……。