複雑・ファジー小説

Re: 「人間」を名乗った怪物の話。  ( No.129 )
日時: 2013/08/31 16:53
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: A/2FXMdY)

1-14.

宿への帰途につくとき、不意にアンヌは思い出したように俺に尋ねてきた。

「ニコルさん、お聞きしたいことがあるのですが」
「ん、なんだよ?」

ちなみに、モードは俺たちとは別の道順で街を見てから宿に帰るらしく、ティアもそれについて行った。
ティムはナルシーに引き留められていたが、別に泊まるところがあるらしいのでと帰ってしまった(あの年齢で旅をしているということに皆不思議そうにしていたが、俺もあれくらいのころにはすでに旅人だったのでとくに不思議に思わなかった)。

「ニコルさんは、銀色の髪をした男性の知り合いはいますか?」
「は?」

俺はアンヌを見たが、真剣そのものな表情だった。

「銀髪で男で俺の知り合いって……?」
「心当たりはありませんか?」

全く。誰だ、そいつ。

と、そう答えようとしたその時、

チカッ!

「いっ、!?」
「ニコルさん?」

何故かわからないが、右目が急に痛くなった。
一瞬だったのですぐに治まったが……なんだ、今の?
眼帯の上から少し右目を抑える。いつもと変わらない、あのキモチワルイ目玉の球体の感触が指に触れた。

「……ニコルさん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。なんでもない」

とりあえず俺はアンヌの質問に答えた。

「まぁ、一応だが俺はそんな銀髪の男なんか知らねぇよ?……もしかしたら忘れているだけかもしれないが。服装はどんなだったんだ?」
「肩に上着を引っ掻けていて、左手にピンク色の手袋のようなものをはめていました」
「知らないな」

俺は即答した。

「というか、ンな奇抜な恰好したやつなんかいるのかよ……?ピンクの手袋って」
「手袋かどうかは、遠くだったので定かではありませんが。確かにピンク色をしていました」

……ますます奇妙な特徴だ。

「そんな変な奴と会ったのか?今日?」
「はい。あ、それともう一つ」

アンヌは少し思い出すように俺に言った。

「何故なのかは私にもわかりませんが……。その人、ニコルさんと雰囲気が、ほんの少しだけ似ていた気がするんです」
「……俺と?」
「はい。話し方や服装、立ち振る舞いもすべてニコルさんとは全くの別人でしたが」
「それは『似ている』ことにならんと俺は思ったわけだが」

あきれながら俺はそう言ったが、アンヌは「違うのです」と、言葉を選ぶように否定した。

「なんというか……全体的な雰囲気が少し似ていたんです。その人を構成する、根本的な『何か』が……」
「……へー」

アンヌが何やら一人でブツブツ呟いて、自分の世界に入ってしまったので俺は適当に返事だけをしておいた。

宿に着くころには、すっかり辺りは暗くなっていた。
空には今にも消えそうな細い月が浮かび、やはり明日が新月であることを表していた。

(何も問題が起きなければいいが)

不思議と、俺はなぜかそんな不吉なことを考えてしまった。