複雑・ファジー小説

Re: 「人間」を名乗った怪物の話。 ( No.136 )
日時: 2013/09/02 15:09
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: A/2FXMdY)

1-15.

次の日、昼間にとくにすることも全くなかったので宿の部屋でボーっとしていると、

「ニコルさん、お暇ですか?」

寝転がっているところにひょい、とアンヌが上から見下ろしてきた。

「ん?まぁ、暇だから昼寝でもしていようかとしていたところだが……」
「じゃあ図書館行きましょう」
「は?そんなの一人で行けば……」

俺は、そう言い終わる前に思わず口を閉ざした。
……アンヌがただ何も言わず、ひたすらジトーっ、とした目で見てきたからだ。
なんだろう、直接文句を言われるよりよっぽど居心地が悪い。

「あーもう、わかったよ……着いて行けばいいんだろ」
「そうです。早く準備してください、読みたい本もあるので」

表情は不愛想な無表情なままなのに、セリフや仕草は駄々っ子そのものである。
本当にどういうヤツなんだよ、コイツは……?

-*-*-*-

昨日と同じく、ナルシーの図書館へ行くと、

「ふにゃー……おはよーお二人さん」

屋根の上からあくび交じりにそんな声が聞こえた。
見上げると、図書館の屋根の上でシリウスが寝転がっていた。数匹ほど、野良だかわからない猫も一緒になっていて平和に戯れている。

「お前、なんつうところで寝ているんだよ?」
「昼間はここがちょうどいいんだよねぇ。今日は癇癪もちの三毛猫サンも機嫌いいし」

といって、寝ているシリウスの腹の上に堂々と座っている、三毛猫をちょっと見せてみせた。

「猫は気ままでいいもんだな?ガキの世話を焼く必要もないし……」

隣にいるアンヌを見たが、今のセリフは見事に黙殺された。

「にゃはは、いいんじゃないのー?俺はニコル君がうらやましいけどね〜、こんなかわいい女の子と図書館デートだなんてさ」
「ふざけんな、俺は少女趣味なんか持ってない」

まともに相手にするのも面倒なので、あきれながらもそう言って俺はさっさと図書館に入った。

「……ん?どうしたんだよ、アンヌ」
「…………なんでもないですよ」

少し遅れてアンヌも館内へ入る。なぜかこっちと視線を合わそうとしなかったが……照明が眩しかったか何かだろうか?

-*-*-*-

そして図書館に入ると、真っ先に聞きなれた声が聞こえてきた。

「ああ、君はなんと美しい!先日はティムさんという新たな天使さまを見つけたばかりですが、やはりあなたの美しさも本物です!」

あまり人がいないのでよかったが、ナルシーのそんなセリフは静かな図書館にかなり響く。

「おいナルシー、取り込み中悪いがもうちょっと音量下げれないか?耳が痛い」

俺が言うと、「これは失礼いたしました!」と、治ったのかよくわからない音量で丁寧に謝られた。
ナルシーのそばには、予想通り『少年』がいた。
……おおかた、ナルシーがあの熱烈なセリフを言うときは美少年を見つけた時だと見当はついていた。

しかし、その少年はナルシーの熱烈な告白にも、昨日のティムのように戸惑ったりはせず、平然としていた。変わったやつだな……?
そいつは俺に気づいて、会釈してきた。

「初めまして、ぼくは星野天使といいます。この図書館の従業員の方ですか?」
「いや、俺はただの一般客。というかコイツの連れだ」

そういってアンヌを示すと、ホシノと名乗った少年はアンヌを見て、少し戸惑ったがすぐに平静を取り戻した。
惚れたのか、それとも女が苦手なのか……?たぶん後者か。不思議とこの少年は、一目惚れをするほど軽率そうには見えなかった。

ホシノは持っていた本を抱え直し、少し困った風に言った。

「どうしましょうか。これを借りたかったのですが、館長さんが話を聞いてくれなくて」
「その本が読みたいのであれば、私の屋敷に招待しますよ!続編も大量にありますから!」

……下心見え見えだぞ、ナルシー。というか仕事はしないのか。