複雑・ファジー小説
- Re: 「人間」を名乗った怪物の話。 ( No.146 )
- 日時: 2013/09/03 18:03
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: A/2FXMdY)
1-16.
「ニコルさん、あれもよろしくお願いします」
「はいはい、っと」
適当に頃合いを見計らってホシノが逃亡した後、目に見えて落ち込んだナルシーを相手にするのも面倒だったので俺はアンヌについて行って、例のごとく本の取り出しの手伝いをしていた。
「そういえばアンヌ、お前歳いくつなんだ?」
なんだかんだ言って、お互いの年齢を知らなかったので、俺はふとそう尋ねてみた。
「今年で12になります。誕生日は覚えていませんが」
「へー、そうか」
「ニコルさんはおいくつですか?」
アンヌにそう聞かれて、俺はちょっと考え込んだ。
「んー……正確には覚えていないんだがな。とりあえず20年は生きたはずだ。25,6くらいか?」
「そうなんですか。……13歳差ですか」
なぜか後半、アンヌは独り言のようにボソッと何か言った。
「ん?『何差』って言った?」
「なんでもありません。あ、あの本も取ってください」
本当によく読めるな、これだけの本を……。
と、言うか、
「お前さ、俺が旅人だって忘れてないよな?今夜モードとティアを送り届けたら、また別の国に出発する日程立てるつもりだったんだが」
「覚えていますよ。明日すぐにでも出るわけではないのでしょう?1日くだされば十分読み切れるので大丈夫です」
読書どころか、ガキのころから勉強すらまともにやらなかった俺からすると信じられんことをサラリと言ってのけた。
……なんだかなぁ。いや別に今さらどうでもいいけどさ。
-*-*-*-
そして、それから本を抱えて図書館を出た。
屋根の上では相変わらずシリウスが、時折野良猫にじゃれ付かれて邪魔されながら昼寝をしていた。あれだけ寝ていて、目が冴えてしまう時間帯はないのだろうか……。
「ニコルさん、あの方……」
急にアンヌが、服の裾を軽く引っ張ってそう言ってきた。
「あ?なんだ……っていうか引っ張るなよ、繊維が伸びる」
「あ、すみません」
謝った後、アンヌは「それで、あの方なのですが」と通りの向こう側を指した。
街路樹や花などで飾られた、馬車用の道の向こう側に、女がいた。
まるで風俗店のような服を真っ昼間から着こなし、腰まであるブラウンの髪を風になびかせている。
「あいつがどうかしたのか?」
「今、こちらを見ていたような気がしたので……」
「はぁ?あの女が?」
女を見ていると、そのうち彼女もこちらに気づいて顔をあげた。
その女は、なぜだかわからないがものすごく印象に残るような赤い瞳をしていた。
いや、この世界で『赤い瞳』を持つことが珍しい、というのもあるがそれ以前に——何か、目を閉じても残像のように残りそうな、そんな赤色なのだ。灼眼、といったやつか。
その灼眼の女は、一瞬俺たちのほうを見た気がしたが、すぐに何事もなかったように目をそらしてその場を立ち去った。
かなり整った顔立ちをしていたので、服装も相まって少し周りの目を引いていた。
「なーんか、妙な奴だな……?」
「そう思いますか、ニコルさんも」
「まぁ、だいたい気のせいだろうけどな」
それより、俺は少し空腹感を覚えたので、さっさと宿に帰って何か食べたくなった。厨房を貸してもらえるように頼んで何か適当につくるか……。
アンヌは本にしか興味もなさそうだったので、俺たちはその後はすぐに宿へ帰った。
——この時点で、俺は少し危機感が薄かったのかもしれない。