複雑・ファジー小説
- Re: 「人間」を名乗った怪物の話。 ( No.158 )
- 日時: 2013/09/05 20:32
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: qQO5uDpp)
1-17.
それから午後になるまでは、俺もアンヌも適当に過ごしていた。
俺は地図を広げて次にどこへ向かうかをあてずっぽうで決めては行き方の方法を考えたり(今までの旅でもそうやって行先を決めていた)、飽きたら昼寝をしたりしていた。
アンヌはたぶん、ずっと本を読んでいたと思う。
お互い、紙をめくる音以外は何も話さず、静かな時間が過ぎた。
初めて会ったときは、ガキが付いてくるなんて騒がしくて鬱陶しいだけかと思っていたが……これくらい大人しいなら、やはり問題はない、かもしれない。
まぁ、アンヌでもたまにガキっぽく駄々をこねることはあるが。
そんな風に過ごして、すっかり日も落ち始めたころだった。
急に、宿の一階で何か、ヒトの声が聞こえた。
「お、お客さん困ります……!」
「いやそれどころじゃないんだって、ちょっとどいて!」
「失礼します、すみませんが退いてくださらなければ殴りますよ」
(なんだ、揉め事か……?)
アンヌも気づいて、不審そうに本から顔をあげた。
と、宿の店主を押しのけて声の主——おそらく2人組——が、ダッダッダ、と階段を上ってきた。
そして急に、部屋のドアをガチャリと開けてこちらを覗いてきた。
「シリウス!?……と、ホシノだったか?」
俺は思わずそう言った。
そう、1階でもめていたのはシリウスとホシノだった。
ホシノは相変わらず無表情だったが、シリウスは珍しく少し焦ったような表情で部屋に入ってきた。
「ニコル君、ちょっとヤバそうなことになったんだよね」
「だからどうしたんだよ?お前ら」
シリウスは、俺の問いに答えた。
「モードちゃんが誘拐された」
-*-*-*-
「『目の前で誘拐された』?実際に見ていたのか?」
俺とアンヌ、そしてシリウスはいったん街に出た。ホシノはかなり文句がたまっていた店主を足止めしてくれている。
俺たちは、まずはティアを探すことにした。
おそらく、モードを誘拐したのは……シリウスの証言からしても、十中八九昨日の黒ずくめだろう。
シリウスは町中の猫たちを集めて、ティアを探すように猫語で頼んでから俺の質問に答えた。
「ちょっと遠目だったけどねー。俺、目はいいから。どーみても、無理やり連れ去ってるようにしか見えなかったし、しかもその連れ去られた女の子が、ニコル君たちの知り合いときた。あくびする暇もなかったね」
猫の数匹を軽く撫でて「頼んだよー、探してきてね」とシリウスは言った。獣人族は自分と同じ種の動物と会話ができるので、こういったときに本当に便利だ。
隣ではアンヌが、街を見回しながら、
「なるべく早く、ティアさんを保護する必要があります。彼らの狙いは、モードさんとティアさんですから。……すでに誘拐されていなければいいのですが」
と、一見冷静ながらも心配そうに言った。
「ったく、ホント往生際の悪い奴らだな……。やっぱあの時、警備兵にでも突き出しておけばよかったか」
愚痴りつつ、俺も猫たちやシリウスと共にティアを探す。アンヌはさすがについてこられないような高い屋根の上や建物の上などを、とにかく走ったり飛び移って街を探す。アンヌは人に聞き込みをしたり、狭い路地を探したりした。
アンヌのみ別行動になってしまうが、万が一の時はシリウスの友人(猫)が助けるらしいので大丈夫なのだそうだ。それに、ここでは人手は別れたほうが都合がいい。
「まさかこんな時に猫が役立つとは……」
「猫を馬鹿にしちゃいけないよー。あっと、あの子か……違うねぇ」
……そうして、街を探す事数十分。
『にゃ〜』
「ん?おおっ、来た来た」
シリウスが、赤い猫耳の片方のみ器用にピクッ、とさせたかと思うと、そちらの方向を向いた。
そのシリウスが向いたほうから、ひょこ、っと一匹の白猫が顔を出す。
「なんだ?見つかったのか?」
「みたいだよー。ハーモニカを持った女の子がいるって」
よーしよし、と猫の頭を撫で、シリウスは俺のほうを見た。
「モードちゃんと黒ずくめ?とりあえずその変な男は、引き続き猫君とシリウス君が探しておく。とりあえずー、ニコル君はこの仔についってって」
「ああ、わかった。ありがとな、シリウス!」
「いいよー別に。アンヌちゃんと言い君と言い、一緒に過ごしていて退屈しないから♪」
俺はシリウスに見送られて、白猫の後を追った。