複雑・ファジー小説
- Re: 「人間」を名乗った怪物の話。 ( No.17 )
- 日時: 2013/08/21 20:06
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: aRobt7JA)
6.
「完全に囲まれたか、これは……」
俺はカエルの群れを見渡しながら呟いた。
盗賊の次はモンスターか。
旅人の荷物っていうのはいろんな奴から人気がある。
それを持っている旅人本人にとっては迷惑以外の何物でもないがな。
とりあえず俺は、この場はさっさと走って逃げてしまおうと考えていた。
「おい、アンヌ、逃げるぞ……って、ん?」
俺はアンヌにそう言いかけて、様子がおかしいことに気づいた。
なぜかアンヌは、地面に膝をついて片手の平を地面に当てている。
「ニコルさん、危ないので下がっていてください」
「……?わかった」
とりあえず了承して、俺はその場でアンヌを見ていた。
カエルは、俺より自分たちに近いアンヌに狙いを定めて襲い掛かってきた。
その瞬間である。
「『地母神ティアマトの御加護よ』——破滅の光を」
アンヌのその声がやっと聞き取れたと思ったら、
ダダダダダダダっ!!!
「ギャアアアオオオオオオ」
「ゲエエェェェッ」
俺は咄嗟に腕で顔をかばった。
その腕に、ベトッと何かが付着。なんだ、いったい……!?
…………。
静かになったので腕を下ろす。
腕に付着したのは、どうやらカエルの血液のようだった。
全く、昨日と言い今日と言い、服が血だらけ……なのはともかく。
今はそれは置いておいて、俺は周りを見渡してみた。
そこには、悲惨な光景が広がっていた。
樹海の地面はボコボコにされ、木の根元がえぐれたりしている。
それだけならまだいい。
そんな地面の上には、一面中カエルの死体が転がっていた。
いや、死体、というのも何か違う。なんせ、内臓やら体液やら血やら、中身を全部ぶちまけてカエルは死んでいたからだ。もはや原型がない。
「……何やったんだお前?」
「『破壊』しました」
立ち上がり、丈の長いスカートについた汚れをパフパフと払いながらアンヌは言った。
「私もニコルさんと同じく『人間』ですが、生まれつきでこのような能力を扱えます。——地母神ティアマトという女神を知っていますか?」
「いや、知ってるも何も……」
まずこの光景を目の前にして、なんで普通に説明始めてるんだ。
しかしアンヌは続ける。
「私は、生まれた時になぜかティアマトに気に入られたそうです。それで、私は大地と接して彼女——地母神に祈りを捧げることで、あらゆるものを『破滅』させることができます」
「……じゃあお前の場合は、もう人間じゃなくて魔女なんじゃないのか?」
「違います」
アンヌは即答で答えた。
「破滅の魔術を使役しているのは地母神ティアマトです。私はただ地面に手をつくだけの女の子です、なので人間です」
「偉い屁理屈だなオイ」
「ニコルさんこそドラゴンの末裔の癖に」
「俺は人・間・だ」
しばらく俺はアンヌと不毛なガキの言い争いをしていた。
……このままじゃ埒が明かんな。
「だー、もうわかったよ、じゃあこれはどうだ」
「なんですか?」
「俺たちは『自称・人間』だ。これで嘘はないだろ」
しばらくアンヌは口元に手を当てて何か考えた後、
「……なるほど、いい案ですね、それは」
納得した。
いい案なのか、これが……。まぁいいか。この場はこれで収まった。
「では敵も始末しましたから、行きましょうか。『自称・人間』さん」
「……そっちこそ『自称・人間』だろうが」
そして俺たちは再び歩き——始めようとして、俺は立ち止まった。
「ちょっと待て」
「?なんですか」
俺は、後ろのカエルの惨状を振り返った。
「ンな散らかした状態で先に進めるかよ!片付けるぞ」
「え」
なぜかアンヌはものすごく意外そうにしていた。
お前、散らかしたら片付けろって親に習わなかったのか(真顔)。
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そして数時間たったのち、
樹海の片隅には大量のカエルが埋められた簡素な墓が出来上がった。
上に棒でも差しておけばそれなりにカタチになるか。
「ニコルさんって、……主夫気質ですよね」
「あ?なんつった?」
「なんでもないです」
アンヌがよく聞き取れない声で何か言ったが、気にしないことにした。
さて、やっと旅の再開といったところか。