複雑・ファジー小説
- Re: 「人間」を名乗った怪物の話。 ( No.24 )
- 日時: 2013/08/22 14:57
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: aRobt7JA)
1-1.
そろそろ夕日も沈みかける頃。
街道の終点が見えてきた。
「あの国ですか?」
「ああ。急いだほうがいいな、日が完全に沈んだら門が閉じられるかもしれない」
俺はそう言って足を速めた。
以前、日が沈むと仕事はそれまでになって、夜の間は誰であろうが住民は皆休む、という法律の国を訪れたことがある。その時俺はその国にたどり着いた時間が、運悪く日が沈んだ直後だったため、国を目の前にして野宿することになった。門兵まで日が沈んだら職務放棄ってどんな国だ。
とりあえず、俺たちはなんとか間に合った。
「旅人のお方ですか?」
門兵が尋ねる。
「そうだ。何日まで滞在できる?」
「問題さえ起こさなければ、とくにこの国では規制はありませんよ。どうぞ、夜も近いので宿をとるならあの辺りがちょうどいいと思います」
門兵は親切に宿が集まっている近くの町を紹介してくれた。
礼を言って俺とアンヌは入国する。
と、その直後だった。
「ああ、ちょっと君!」
後ろから門兵の焦ったような声。
なんだと思って振り向くと、門兵は俺たち——の、向こう側にいる女に話しかけたようだった。
「ん?何」
女は気づいたようで、水色の長い髪を片手でかき上げながらこちらを向いた。もう片方の手には、骨董品のような細長い黒い煙管。優雅に紫煙をくゆらせている。
随分大人っぽい雰囲気だが、顔立ちは若い。
「……珍しいな」
俺は思わず呟いた。
アンヌはそれが聞こえたらしく、疑問気に見上げる。
「あの女、瞳が赤いだろ。ニンフェウムの一族か?」
「どうでしょう。ニンフェウム以外にも、赤い瞳の方は一応いますよ。滅多に見かけませんが」
俺たちがそう話していると、門兵は彼女に注意を始めた。
「君、未成年でしょ。駄目じゃないか煙草すったら!」
そういうことか。
しかし、煙管の女は全く意に介せずサラリと言い返す。
「あら、この世界にもそんな法律があるわけ?私のいた世界では、ちょっとくらいは許されたんだけど」
門兵は、彼女の言った『世界』という単語に少し戸惑ったようだが、それでもなお「とにかく駄目なものはダメだ」と注意していた。真面目な性分らしい。
やがて女は不満げにしながらも、ここは大人しくしたほうが早く抜け出せると判断したらしく、煙管をしまった。
と、そこでようやく女は俺たちの存在に気づき、
「あんたは大人でいいわね」
と肩をすくめて俺に皮肉っぽく言った後、どこかへ去って行った。
それを見てアンヌがポツリ。
「なんだか、またどこかで会いそうな人ですね」
「……お前、本の読みすぎ」
まさか、な。
-*-*-*-
その日、俺は門兵が言っていた町で適当な宿をとり、さっさと夕飯をとって早速寝た。
「……。もう少し起きて観光しようとか思わないのですか」
「明日の昼間なー」
おやすみ。
-*-*-*-
次の日の朝。俺が起きると、待ち構えていたようにアンヌはもう支度を終えて俺のベッドの傍らに立っていた。
「……早いな」
「おはようございます。はやく観光行きましょう」
「だから気が早いって……」
無表情ながら、アンヌの蜂蜜の瞳は遠足を目の前にしたガキのようにキラキラしている。ああもう、だから子供のお守りは嫌いなんだよ……。
一応鏡をみて、寝癖やら眼帯の位置やらを確認し(長年の経験で、俺は寝ながらでも眼帯が外れないように寝る技を習得している)、アンヌに引っ張られる形で部屋を出た。
宿の一階のフロントに降りる。この宿は、食事設備は付いていないので外食か自分たちで食べ物を持ち込まなければならない。
とりあえず今日の朝食は、外食になった。ついでに店も見て回って、旅に持っていく作り置き料理の材料も買おうと思う。
と、そう思いながら宿を出ようとすると、誰かと肩がぶつかった。
「ああ、悪い」
「こっちこそ」
謝って相手を見た。
そして、俺とそいつは同時に
「「あ」」
と言った。アンヌも気づく。
ぶつかった相手は、昨日の煙管の女だった。