複雑・ファジー小説
- Re: 「人間」を名乗った怪物の話。 ( No.25 )
- 日時: 2013/08/22 16:26
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: aRobt7JA)
1-2.
「当たりましたね」
「まさか本当になるとは」
俺とアンヌがそう話すのを見て、女は怪訝そうにした。
「ああ気にするな、こっちの話だ」
「そう?まぁいいわ」
それから俺はそのままそこを去ろうとして、
「ね、ちょっと待ってよ」
女に引き留められた。
「あなたたち、旅人でしょ?」
「そうだが」
「これから朝食?一緒してもいいかしら。自分の分はちゃんと払うわ」
俺は女の意図がよくわからなかったが、アンヌに目線だけで尋ねたところ、
「いいですよ。『人数は多いほうが楽しい』という法則もあるらしいですし」
と言った。女はアンヌに礼を言った後、こう続けた。
「眼帯くんのほうも変わってるけど、あなたもかわいい顔して変わり者ね?」
「なんで俺まで変人扱いだ?俺は普通の人間だが」
「私も普通の女の子です」
「……やっぱあんたたち、ちょっと変わってるわよ」
心外だ。
-*-*-*-
テラスのある喫茶店で、俺たちは朝食をとった。内容は胡桃パンと卵と、あとは付け合わせの質素なサラダだ。そして水。
「だいぶ遅れたけど……。私はモード。あなたたちは?」
「俺はニコラウス。ニコルでいい」
「アンヌと言います。よろしくお願いします」
簡単に自己紹介が終わった後、モードは世間話のように尋ねてきた。
「ニコルとアンヌって、どういう関係なわけ?」
「あ?……ただの背後霊、じゃない旅の同行者だ」
テーブルの下でアンヌのものらしき小さな足が容赦なく俺の足を踏んできた。わざと間違えたわけじゃないぞ、……たぶん。
モードは俺の答えを聞いて「ふ〜ん」と、なぜかややつまらなそうな、気の抜けた返事をした。
今度は逆に俺が、少し気になっていたことを尋ねた。
「お前さ、昨日門兵に注意されてた時、なんか妙な言い回ししていただろ」
「え、私なにか変なこと言ってた?」
「『この世界では』とか、そういう言い方。まるでお前が別の異世界から来たような言い方だな、と思ってな」
ま、俺の考えすぎかもしれんが——と、続けようとして、その前にモードがニヤリと笑ってこう答えた。
「へーえ、さすがじゃない。そこまで見破るとは……。やっぱりあんたたちは信用できそうね」
「……まさか本当に異世界人、なのか?お前」
あっさりとモードは「そうよ」と答えた。……本気か。
「転移してきたのですか?ということは、モードさんは魔女?」
おいアンヌ、興味津々で聞いてどうする。
モードは特に気分を害したわけでもなく、水を一口飲んでから答えた。
「私は魔女じゃないわ。ま、ちょっと特殊な種族ではあるけど……。この世界には、その『転移』とかっていうので来たんじゃないわ。たぶん」
「?転移でなければ、どのようになさったのですか」
すると、モードは肩をすくめて言った。
「私にもわかんないのよね、それが」
「え」
「は?」
思わず俺も声に出していた。
「気が付いたらこの世界に飛ばされていた、ってワケ。困るわよね、ほんと」
至極あっさりと彼女は言う。
「困るどころじゃなくねぇか、それ……」
「元の世界にご家族や友人は」
アンヌがなおも尋ねると、モードは
「家族はいないけど……仲間ならいるわよ。騒がしいやつらが何人か」
と答えた。言い方はどこかはた迷惑めいている風なのに対し、そのことを語る表情は嬉しそうだった。
にぎやかながら、彼女も一緒に過ごすのを楽しんでいたような存在なのだろう。いい仲間だ。
アンヌはしばらく考えた後、モードに言った。
「では、そんなお仲間さんたちと再開するためにも、元の世界に戻るべきですね」
「そうなのよ。ま、その手段が皆目見当もつかないから困っているんだけど」
困ったといいつつ、モードは随分落ち着いている。
……普通の奴なら、もうちょっと慌てふためいていてもおかしくないと思うのだが。冷静な性格なのだろうな、おそらく。
「ニコルさん」
急に、アンヌがそれまで黙っていた俺に話しかけてきた。
「モードさんが元の世界に戻るの、私たちも手伝いましょう」
「ん?ああ……って、はぁ!?」
危うく返事をしかけた。
「今『ああ』と了承しましたよね」
「してないしてない。つうかお前、異世界転移の原理なんざ知りもしないのに、何また無謀なことを言いだしてるんだよ!?」
「転移の原理くらいは知っています。本で読みました」
「本って……」
マイペースに残りの朝食を片付けながらモードは、
「アンヌって『普通の女の子』って言う割には結構オカルトよね」
とのんびり言っている。
俺もアンヌも、『オカルト』の意味はよくわからなかったが……まぁ、モードのもとの世界での用語か何かだろう。
とにかく、アンヌは意地でもモードを助けたい様子だった。
じぃ、と猫のような金色の双眸がこちらを見上げる。
「……はぁ。わかったって、俺も協力すればいいんだろ。何すればいいかは知らんが」
「何をするのかはこれから作戦を練るのです。今は了承だけすればいいです」
どこの悪徳業者だお前は。
「……なんか、迷惑かけたっぽくて悪いわね。別に無理しなくていいわよ?」
「そんなことないです、ニコルさんはいい人なので私を助けてくれました、モードさんもきっと助かります」
「そう?ありがと」
……お前、最初『観光したい』って言ってなかったか?
まぁいいや。
『毒を喰らわば皿まで』という格言を俺は実行することにした。