複雑・ファジー小説
- Re: 「人間」を名乗った怪物の話。 ( No.46 )
- 日時: 2013/08/23 19:32
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: aRobt7JA)
1-3
そして、その後アンヌは町の人に何かを尋ねて、どこかへ向かい始めた。とりあえず俺とモードはその後を付いて行く。
しばらくしてアンヌがたどり着いたのは、
「図書館か、ここ?」
「そうです。この国で一番大きい図書館だそうです」
俺は思わず足を止めた。
荘厳な造りの入口には、ガーゴイルやら天使の象が対になるように建ち、地面には芝生が敷かれていたり、どこぞの屋敷の庭のように花が手入れされている。
「ずいぶん立派な造りだな。昔の貴族の屋敷でも買い取ったのか?」
「いえ、この図書館を管理なさっている方が、大変な富豪だそうで」
「それも町の人から聞いたわけ?」
「はい。とても目立つので、すぐに見つかるとおっしゃっていました」
……なるほど、確かにすぐ見つかる。
アンヌは入口に歩きながら続けた。
「元の世界に戻る方法も、国一番の図書館なら何か書かれた本が見つかるかもしれないと思いまして」
「そういうことか」
俺たちは図書館の中に入った。
館内も、やはり豪華で屋敷のように飾り付けられていた。
床は大理石だし、窓もすべて透明なガラス、あるいはステンドグラス。
確か、これだけ一滴のくもりもないガラスは随分高級な素材であると聞いたことがある。
この屋敷、いや図書館の創立者は本当に派手好きなようだ。
アンヌは早速、目的の分野の棚を探し始めた。
ふと、そこで俺は疑問に思い、それとなくモードに尋ねてみた。
「なあ、これだけ派手で見つけやすいのはいいが……蔵書もちゃんとしているのか?」
ただ派手好みなだけで、中身は何も『成っていない』という貴族なんて、そこらへんにゴロゴロいる。俺はそのあたりを心配した。
モードは、やはり「さぁ?」と答えるだけだった。ま、わからないよなそれは。
と、俺たちが話していると突然背後から、
「その点ではご安心を!我が図書館では、外見の美しさももちろん、蔵書においても高品質そして素性の確かな物を提供しております。なんといっても、私のコレクションですから!ま、ほんの一部ですが」
なぜか自信満々に高らかな声で話に割って入ってきた人物がいた。しかも一言が長い……。
「うわ、驚かすなよ。……誰だ、お前?」
冷静に驚いた後、俺はそいつに言った。
「おっと、名乗り遅れました!私はナルシー!あなた方は旅人のお方ですね?私はこの図書館の館長を務めております」
「ああ、この人が」
なるほどね、とモードは呟いた後、ナルシーと名乗る男に改めてこう言った。
「ナルシーさん。悪いけど、もう少し普通にしゃべってくれない?図書館って静かにするところだったと思うけど」
ずばずば言うな、こいつ。
しかしナルシーは気分を害したわけでもなく、素直に謝った。
「ああ、これは失礼いたしましたレディ!私としたことが……」
「わかればいいわよ、それと私はレディじゃなくてモードね」
「ミセス・モードでしたか!私に注意をしてくださっただけではなくお許しもいただけるとは、感涙の極み!」
……どうでもいいが、全然静かになっていない。
その後も、モードとナルシーが「ミセスはいらない」「いやしかし女性を敬称もなく呼ぶのは」「『さん』とかでいいって」など言い争い(?)を始めたので、俺はさりげなくその場を離れた。
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「おい、アンヌどこだ?って、本当に迷路みたいだなここ……」
本棚(もちろんこれもやたら豪華)の間をすり抜けたりして、アンヌを探していると、本棚の向こう側から
「ニコルさん?こっちです」
とややくぐもった声が聞こえた。
棚を回り込んでみると、アンヌを見つけた。
「ここにいたのか。……このあたりの本が、参考書なのか?」
「はい。転移術や儀式について詳しく書かれています」
アンヌは今は、読書用の小さな椅子に座って大きな厳つい本を開いているところだった。アンヌにとっては大きすぎて、持ちにくそうだし少し不便に見えた。
アンヌのその足元にも、何冊か棚から抜き取った本が重ねられている。
この短時間でよく見つけられたな……。
「なんかわかりそうか?」
「今はまだ……」
「そうか」
とりあえず俺は床にあぐらをかいて、重ねられた本の一冊を手に取ってみた。何か手伝えるかと思ってのことだ。
しかし、手伝いになるどころか、
(……これ、何語で書いてあるんだ)
こんな状態だ。駄目だな、俺の脳はこういうことに関しては耐久性がない。
アンヌはそれまで読んでいた本を閉じて、元あった棚に戻した。
続いて、物色するように棚に並んだ背表紙を眺め、少し高いところにある赤い本を取ろうとした。
……が、めいっぱい背伸びしているが全然届かない。
ああそうだ、俺でも手伝えることあったっけ。
立ち上がって俺は後ろからアンヌがとりたがっている本を棚から抜き取り、
「ほれ」
と渡した。アンヌは少し驚いたように瞬きした後、受け取りながら、
「ありがとうございます。あと、そこの本も取っていただけますか」
「はいはい」
それからしばらく、俺はアンヌの梯子の代わりを務めた。これなら馬鹿でもできるな。