複雑・ファジー小説

Re: 「人間」を名乗った怪物の話。  ( No.78 )
日時: 2013/08/25 18:13
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: aRobt7JA)

1-6.

と、いうわけで。俺とモード、ナルシーは街に繰り出した。
リストの品は手分けで探すかどうかで迷ったが、

「お二人とも、この街の地理については初心者でしょう?私が案内を務めますよ!」

というナルシーの発言がもっともだったので、3人で行動することになった。
……なんだろうな。ふとこういうとき、不思議な気分になってくる。
俺はつい一昨日までは、たった一人で旅をしていて、丸一日声を発しなかった日だってあったくらいなのに。
それが今では、妙な『怪物』少女が道連れになって、異世界女と出会って、吸血鬼と3人で街を散策しているのだ。

「今年は厄年かなんかなのか……?いや、『厄』というのも違うか」
「ん、なんか言った?ニコル」
「あー、何でもない」

-*-*-*-

とりあえず、俺はまずリストの一番上にある品物を確認した。

「『ユニコーンの角』……?」

……これ、街で手に入るものなのか?
すると、同じくリストを覗き込んでいたモードがこう言った。

「魔法屋みたいなお店なら売っているんじゃない?そういうの」
「魔法屋って……ンな店の売り物なんか、大体ニセモノじゃねぇか」

しかし、それ以外にとくに案は思いつかなかったため、とにかく魔法屋へ行くことになった。ナルシーがいくつか店を知っているらしいので、ここから最も近い魔法屋を訪ねる。

一応説明しておくと、『魔法屋』というのはまぁ名前通り怪しげな店のことを指す。変なまじない道具やら、『呪いのナントカ』やら、いろいろ売っているが……普通はみんなガセか偽物だ。
ただ、たまに運が良いと正真正銘の『本物』が陳列されていることもある。
ま、主には恋占いが好きな女たちが、遊び半分で訪れるようなところだ。

「着きました!こちらが魔法屋です!」

そう言ってナルシーが大げさな動作で示したのは、想像通りのおどろおどろしい雰囲気の、怪しさ全開な店だった。
目の前には小さな噴水が設けられた小ぎれいな広場があるというのに、この店で雰囲気がぶち壊しである。……なんでこんなところでわざわざ店を構えたんだ?

とにもかくにも店内に入る。
天井からは、紐やらまじない道具らしき数珠やらがぶら下がっていて、歩くたびに邪魔だ。俺やナルシーなんかはいちいち背をかがめないとなかなか進めなさそうだった。
床にもごちゃごちゃと、商品が並べられているのか転がされているのか、とにかく何かは置いてあって通路が狭い。

「……こんなので儲けなんか入るのか?」
「商売にはそれぞれの商法があるのですよ!そう考えてみるとなかなかにこれらについても興味深くはなってきませんか!?」
「え、いや別に」

男2人の会話は無視して、一番前をずんずん奥まで歩いていたモードが、不意に振り返った。

「ねぇ、これじゃないかしら?」

その手には、ビンにはみ出すように無理やり入れてある何かのカケラ。ラベルには、『ユニコーンの角』とあった。

「本当にこれなのか?どうせ年老いて使えなくなった、家畜の牛とかの角なんじゃねぇのか」
「そんなのわからないでしょ。ま、私にも皆目見当つかないけど」

結局わからないままだったが、大した値段でもなかったし物は試しとそれを買った。
こんな調子で大丈夫なのか……?

「えっと次は……『聖水』か」
「じゃあ教会かしらね」

そう言いながら魔法屋を出ると、

〜♪〜〜♪
——ざわざわ、

目の前の広場に、ちょっとした人だかりができていた。
人だかりの中からは、音楽が聞こえる。

「なんだ……?」

少し気になったので、俺たちも人だかりの中心を覗いてみた。
すると、モードとナルシーが、

「あ、あの子!」
「はっ、あの方は……!」

と、同時におどろいた様子で息をのんだ。
不思議なことに、2人とも別の方向を向いていたのだが……。

(どうしたんだこいつら……?)

気になったが、その前に人々が急に『ワッ』と歓声を上げたので、俺の注意はまた人々の中心に戻った。

そこには、ハーモニカを持って目をパチクリさせている一人の少女がいた。
どうやら、先ほどの音楽はこの少女が奏でていたようで、演奏が終わったので人々が拍手をしたのだ。
少女はしどろもどろに戸惑った様子で、ぎこちなくお辞儀をしていた。
チップを渡されても、その受け取り方はやはり不慣れな様子で、とくに大道芸に慣れているわけではなさそうだった。

すると、モードが急にその少女に近づいた。

「ティア!あなたもここにいたのね」

すると、ティアと呼ばれたその少女は少しだけ嬉しそうになり、

「モードさん……!良かった、また会えて」

と駆け寄った。どうやら知り合いらしかった。

「モードの知り合いなんかこの世界にもいたのか……。って、ん?ナルシー?」

ふと横を見ると、ナルシーが忽然といなくなっていた。
かと思うと、モードとティア……の、右側のほうに、

「君!ああそうですあなたです!どうかお待ちを!!」

と、誰かを引き留めているナルシーがいた。
その相手は、幼くまるで女のようなガキ、いや少年だった。

「ふぇ?ボク?えっと、お兄さんだぁれ……?」

戸惑ったようにする少年にお構いなく、ナルシーは片膝をついて左手を胸に当て、右手を少年に差だし、

「あなたこそ私のディスティニー!!ああ、神とはなんと粋なお方なのでしょう!?私めにこのような数奇な出会いを設けてくださるとは……感涙の極み!!!」

……熱烈に告白を始めた。

「えっとあの、お兄さん?」
「ああ君はなんと可愛らしいのでしょう!?どうかその可憐な唇に、私の唇を重ねる許可をがはっ」

とりあえず俺は、目の前の吸血鬼の頭に強烈な手刀を入れた。

「何やってるんだよお前は……?思いっきり困ってるだろ、このガキ」
「うう、何とも強烈な怒りの一撃……!はっ、もしやニコルさん!あなたもこの天使様の愛くるしさに、心を奪われてしまったのですか!?」
「もう一発ほしいか」
「すみませんでした」

冗談ではなく、眼帯の下で右目が疼いた。いや本当に。

「何やってるの、あんたたち?」

後ろでモードがあきれたように声をかけてきた。