複雑・ファジー小説

Re: 「人間」を名乗った怪物の話。 ( No.85 )
日時: 2013/08/25 21:08
名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: aRobt7JA)

1-7.

数分後。一度落ち着いて、それぞれの話を聞くことになった。

「そのティアとかいうやつは、なんだ……モードのもとの世界の知り合いなのか?」

広場の噴水の縁にちょこんと腰掛けているティアを見ながら俺はモードに尋ねた。

「ちょっと違うわね。この子とはこの世界に来てから知り合ったのよ。ニコルたちと出会う前、くいぶち稼ぎに私も、ちょっと大道芸みたいなのをやってこの世界のお金を稼いだりしていたんだけど……。そのときに、この子も同じようにハーモニカ演奏で稼いでいるところを見かけて、話したことがあったの」

そういうことか。

「大道芸ってお前、なんかできたのか?」
「扇で炎の舞をやったりとか、そんなところ。本当は戦闘手段だけど」

何てことないようにモードはサラリと答えた。炎の舞って、普通そんな簡単にできないと思えるのだが……。

まぁそれは今はさておき。問題は……こっちの2人だ。

実は先ほどから、ナルシーもティアと同じく噴水の縁に座っていたのだが……その膝の上には、無理やりな形でさっきの少年が座らせられていた。がっちりと腕をまわして、少年をむぎゅう、と抱え込んでナルシーはとんでもなく上機嫌にしている。……変態か、お前は。
ちなみに少年のほうは、最初のうちはなんとかナルシーの腕から抜け出そうと試みているが、大人と子供の力量差なんてたかが知れている。今ではほとんど諦めている様子だった。……不憫だ。

「吸血鬼ってショタコンな生態もあったわけ?」

モードがあきれ気味にナルシーに尋ねた。

「『ショタコン』?はて、それはどういう意味ですか?」
「ああゴメン。『少年趣味』って意味よ。『美少年愛好家』とも言えるわね」

どんな用語だ……。

「なんと、モードさんの世界にはそんな素敵な言葉があるのですね!そうです、私はこの世で美少年をもっとも愛しているのですよ!彼ら『天使たち』のためなら、私は本でも財力でも、あらゆるものを犠牲にしてもかまわない……!!」
「お兄さん苦しい……離してってば……」

熱く語るうちに、少年を抱く腕に力が入ってしまったのだろう。少年が、もうほとんど涙目で反抗した。

「ああ、失礼!私はこんな素敵な天使になんてことを……。それにしても、涙もなんと美しいのでしょう!?しかし私はそんな美しい涙を見たくとも、彼が苦しむ姿は見たくない!なんというジレンマ!」
「どうでもいいから離してやれよ、ナルシー。そいつ、窒息するぞ」

見てられなくなったので、いい加減俺は少年を助け出した。

「はぁ……助かった。ありがとう、眼帯のお兄さんっ」

完璧な上目使いで、少年は礼を言ってきた。

「別に礼はいいが……。お前、もう少し仕草とかを改めたらどうだ?」
「へ?仕草?」
「男なんだろ、お前。そんな女みたいな仕草ばっかしてたら、それこそ変態どもの恰好のエサにしかならねぇぞ?」
「えっ、ボク普通にしてるつもりなんだケド……」

むしろ重症だな、それは。
と、俺がそんな風に少年と話していると、ナルシーが強烈に恨みっぽい視線を俺に送ってきたのでそこでいったん会話を止めた。

話が途切れたのを見計らい、今度はティアが口を開いた。

「あの。一つ聞きたいんだけど」
「ん、どうしたのティア?」

モードが聞き返す。

「モードさんも、もしかして異世界からこの世界に、突然飛ばされたの?」
「そうだけど。今、どうにかして元の世界に戻るように、ニコルやナルシーに手伝ってもらっていたのよ。ここにはいないけど、アンヌって子も協力してくれていて……」

そこまで話して、モードはアレ?という顔で気づいた。
俺はティアに尋ねた。

「お前、『モードさんも』って……まさかお前も?」
「そう。気づいたら、この世界」

……異世界の来訪者がさらに増えた。

「なるほど、ならばティアさんも私たちと元の世界に戻る方法を探すのが妥当ですね!お困りなのでしょう?」

やっとまともな状態に戻ったらしいナルシーが口を挟んだ。

「そう。元の世界、できれば戻りたいの。……手伝ってくれるの?」
「あたりまえじゃない。でしょ、ニコル」

全員が俺を見た。

「ここで断るほど、俺は空気が読めない奴じゃないんだが」
「ふふっ、じゃあ決まりね」

面白そうに笑ってモードが言った。楽しんでやがるな、コイツ。

「あ、あのぉ……」

と、そこにおずおずと言った感じで、先ほどの少年が声をかけてきた。

「ん?お前、帰ったんじゃ……」
「ごめん、話が気になっちゃって全部聞いてて……」

照れくさそうに「えへへ」、と少年は笑った。ナルシーがその笑顔でクラッ、となっていたがまぁ気にしない。

「よかったら、ボクもそのお手伝いしてみていいかな?」

キラキラした目でそう尋ねられた。

「なんでまた?お前にはほとんど関係なさそうだが」
「だって面白そうだもの!それに眼帯さん、さっき助けてくれたし……」

いや、その助ける元凶となった人物も同行しているんだが。
だがまぁ、この少年も異世界の移転についてなどに興味があるらしかった。

「いいんじゃないの?人手は多い方が効率も良くなるだろうし。私やティアにとっても助かるから」
「そうか?……まぁいいや。どうせ俺がリーダーなわけじゃねぇし」
「え、眼帯さんが率先して助けているわけじゃないの?」

なぜかものすごく意外そうな目で見られた。……俺はそんなに善人に見えるのか?

「そういえば、ボク、まだ自己紹介してなかったや。ボクはティム!よろしくね、お兄さんお姉さん」

少年ティムは最高の笑顔でそう言って、ペコリとお辞儀をした。
ナルシーが再びクラッ、となって軽く脳震盪を起こした。……もうコイツの反応は総無視でいいや。