複雑・ファジー小説
- Re:「人間」を名乗った怪物の話。 ( No.99 )
- 日時: 2013/08/28 14:47
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: A/2FXMdY)
1-10.
「何やってるんだ、アイツら……!?」
俺は思わず、窓の枠に手をかけ、
そのままそこから飛び降りた。
——普段はこの手はあまり、というか本当に使いたくないのだが……緊急事態である。
落下しながら俺は目、特に右目に力を込めた。眼帯の下で右目がじく、と疼いて熱を帯びる。
そして俺は地上に、猫のようにスタッ、と着地した。
普通の人間だったら、骨折どころかとっくに死んでいる。だが、ドラゴンの血を受け継いだ右目を開眼させたので、俺の身体はドラゴンと同等なほど強靭になったから無事なのだ。ただし、この方法は人工的にドラゴンの力を引き出すので、効果は一瞬しか現れない。
いきなり上から飛び降りてきた俺に、黒ずくめたちはかなり驚いたらしい。警戒して後退する。
「なんだ、お前は!人間ではないな……?」
「うるせぇよ、俺は人間だ馬鹿」
ただし自称だが、と心の中でだけ付け足した。
その間に俺は周りを確認する。どうやら俺たちの中で戦えそうなのは俺だけのようだ。
ティムはナルシーの後ろに逃げ込んでしまい、ナルシーはティムをかばうように立っている。モードは何か様子がおかしい。
そしてティアは、黒ずくめの1人に人質にとられてしまっていた。
さっき話しかけてきた、黒ずくめのリーダー格らしき男が俺に尋ねてきた。
「お前はそいつらの味方か?」
「そうだ。何なんだ、お前らは?強盗か?」
それに男は鼻で笑い、答えた。
「ただの強盗ではない。我々は、崇高なる研究のための一部にすぎないのだよ」
「あ、そ。よくわからんがとりあえずぶちのめせばいいんだな?」
また俺には理解しきれなさそうな話になったので、俺は早々に会話を打ち切った。
男は何か言いたそうに、あっけにとられて口をパクパクしていたが、俺はお構いなしに動く。
まず、一番近い黒ずくめの1人の腹に拳を叩き込む。こちらはドラゴンの力なんか使わずとも簡単に気絶させられる。
うめき声をあげてそいつは倒れた。ここで、やっと他の奴らもやる気になって、
「何するんだよ、この怪物め!」
と言って、全員メイス片手に襲い掛かってきた。
「だから、怪物じゃなくて人間だっつうの」
言いながら俺は、最初にメイスを横薙ぎにしてきた黒ずくめの攻撃を、クルッと反転しながら避ける。
その遠心力を利用して、そのままそいつの背中に回し蹴りを入れる。
「ぐはっ!?」
背骨をやられて、そいつも倒れこんだ。
それを歯ぎしりしながら見ていた2人が、今度は俺を挟み込むように襲ってくる。
俺は2人が攻撃してくる瞬間、サッとしゃがみこんだ。
寸前で2人とも戸惑いながらも攻撃の手をなんとか止めたので、同士討ちにはならなかったが……俺はしゃがんだ態勢のまま、2人の足を同時に払った。
あえなくそいつらは2人そろって転倒。起き上る前に俺はメイスを片方から奪い取り、2人の腹めがけて突き刺すようにメイスを叩き込んだので、むせて気絶した。
ここで攻撃が止んだので、周りを見ると、黒ずくめは全員俺と戦いたくなさそうに後退していた。
「なんだ?もういねーならとっとと失せろよ、ゴミが」
挑発するように言うと、1人が前に進み出た。——ティアを人質に取っている奴だ。
そいつは、もともと気が弱い性分なのか……ガチガチ鳴る歯を必死で抑えながら、ナイフをティアの首に突き付けて言った。
「おおお前、大人しくしろ!そそ、それ以上暴れたらこいつの命はないぞ!!」
俺はため息をつきたい気持ちをこらえて、そいつに言ってやった。
「あ、そ。勝手にしろよ」
「へ?」
間抜けな声をあげるそいつ。俺は、脅しかけるようにわざと『ドン!』と音をたてて一歩踏み出してやった。
「ひ、ひぃぃっ!!お前、やっぱ人間じゃねーよ!?」
あまりに恐怖したのだろうそいつは、ナイフもティアも投げ出して腰を抜かしてしまった。それでも、俺からは一刻も早く遠ざかりたいらしく、地べたを這って必死で距離をとった。
……あのな、さすがの俺でもそこまで怪物扱いされると傷つくんだぞ。
まぁいいや。どうせ慣れてる……。
もともと、気が弱かっただろうそいつなら、例え本当にティアを刺さなければならない状況になってもそれはできなかっただろう。こういう、悪人には明らかに向いていないヒトを、俺は旅の間に何人も見かけた。
解放されたティアは、即座にモードの方へ駆け寄った。
「モードさん……!」
「うぅ……ティア……?私、は……」
俺もそっちに行くことにする。先ほどからモードの様子がおかしい。なぜか、まるで幼い少女のようにポロポロ涙をこぼしているのだ。白い服には、暴行のあとのように土汚れがついている。
「何があったんだよ?特にモードは」
俺が尋ねると、ティアは黙って首を横に振るだけ。
ますます訳がわからなかったので、ナルシーに目で問うてみた。
「ニコルさんが灯台に行っていた間、急に襲われたのですよ……。最初はモードさんが、不思議な扇で炎を繰り出す技を使って応戦してくださったのですが……」
いつになく悲しそうに語るナルシー。その後を、ティムが引き継いだ。
「ティアが、人質にとられてモードの動きが封じられちゃったんだ……!その間、ずっとモードは暴力ばっかされて、様子もおかしくなっちゃって……。ごめん、ボクが全然力不足だったから」
「私こそ、レディの一人も守れないなんて吸血鬼一族の名折れです!あぁ、なんという……」
なんだか、だいぶ落ち込んだ雰囲気になってしまったので俺は、
「あー、大体わかったから……そんな落ち込むなって」
とだけ言った。もうちょっと気の利いたセリフ言えないのかよ、俺は……。
と、そこで会話に割り込んできたヤツがいた。
「おしゃべりはそれで終わりか?」
さっきの黒ずくめの、リーダー格の男だった。
俺は答える代りに、睨み付けてやる。
するとそいつは、急に懐から短刀を取り出した。
攻撃か、と思って身構えたのだが……そいつは、俺たちを見据えたまま傍らにいる、さきほどティアを手放した部下に——その短刀を突き刺した。
「「「え?」」」
「へ?お、お頭……?」
俺たち全員は驚いたが、刺されたそいつも驚いていて、短剣をさされた自分の薄っぺらい胸を見下ろした。
そのまま、バタン、と後ろに倒れこんで……たぶん絶命した。
「なんで……おい、そいつお前の部下なんじゃねぇのかよ!?」
思わず俺が黒ずくめに尋ねると、そいつは今の行為を本気で何とも思っていないように答えた。
「こいつは、貴重な実験体を手放したばかりか本来の任務を投げ出して、逃げ出そうとすらした。そんな無能な部下など、必要がない」
そんな黒ずくめに、俺はこう言っていた。
「……お前のほうが、よっぽど人間じゃねぇよ」