複雑・ファジー小説

Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.39 )
日時: 2013/10/25 14:56
名前: 琴 ◆ExGQrDul2E (ID: Z6QTFmvl)

【第八話】<消失>

『夜人って誰だっけ』
 俺は、夜中そのことを考えていた。だから、寝られていなかった。
 小さな事件は昨日の話。
 雪が帰る時に見つけた写真だ。俺と、知らない少年が写った写真。雪が言うには俺の親友らしい。だけど、俺は全く思い出せなかった。
 そして、今は朝。
俺は、今日から学校にいってみることにした。
夜人のことは思い出せないが、ゴリラのようなボスには勝ったのだ。
 それは、中西 剛に勝てたかの様な嬉しさだった。
だから、俺は学校にいくことにした。
それに、学校にいけば夜人が分かるかもしれないし。

 ベットから起き上がると、ドアを開ける。久しぶりの家の一階。おれはそこを歩いていき、洗面所へ。
じゃぶじゃぶと顔を洗う。冷たい水が気持ちいい。
その後で、軽く歯を磨く。
 そして、リビングに行った。そこに、母と父の姿はなかった。もう二人ともとっくに起きている時間だ。
きっと、もう仕事に行ってしまったのだろう。
今日もおれが引きこもると思っていたのだろう。俺のための朝ご飯などあるはずがない。
 仕方なく、食パンを温めて、牛乳をコップに注ぐ。
その二品だけで俺の朝ご飯は終わった。
時計を確認すると7:00。早すぎるかもしれない。
だけど、もう学校にいくことにした。

 学校に行くと、もう門は開いていた。
先生が皆に挨拶をしている。こんな早い時間なのに、皆はもうきているらしかった。
 俺も門の前の先生に挨拶をして、下駄箱に行く。そして、上履きに履き替えると、自分の教室に向かった。
「おはようございます」
 教室のドアを開けて入る。
すると、クラスメートがこちらの方をみた。
そして、俺の方に駆けてくる。
「おい、お前。 長いこと来なかったな、心配したぞ?」
「おいおい、夜人がいなくなったからって傷心か」
 クラスメートが俺の顔をみながら笑顔で話す。
だが、俺が笑顔になれるはずがない。
「夜人がいなくなった?」
俺は、二人のクラスメートに聞いた。
「あ? お前、知らねーの? 夜人、一週間前からいないんだぜ?」
 嘘だろ、いなくなったのか?会えないじゃないか。
「それ、もうちょっと詳しく」
 そう言おうとしたらチャイムがなった。あれ?早くないか?
教室の時計を確認。もう8:30をこえていた。
あ、家の時計が壊れてたのか。
 チャイムが鳴ったから、クラスメートは自分の席に戻っていった。俺も、自分の席に着く。
「おはようございまーす」
 チャイムが鳴り終わるのと丁度ぴったりに担任……ではなく、梢さんが入ってきた。

Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.40 )
日時: 2013/10/25 14:58
名前: 琴 ◆ExGQrDul2E (ID: Z6QTFmvl)

「えーっと……不幸なお知らせです。 担任の先生が通り魔にあって入院しました。 なので、僕が暫くこのクラスの臨時担任になります」
 通り魔に遭った!?なんだそれ、危ねえな。あー、登校中に遭わなくて良かった。
てか、担任もさっき遭ったってことか?不幸だな、あのメガネ面も。
「あ、赤崎くん来てましたか」
 梢さんが僕の方をみて微笑む。クラスメートの視線が僕に集まる。
でも、その視線は一週間前の冷たいものじゃない。暖かい、優しい視線だった。
 一週間前のあれは夢だったんじゃないか、そう思うほどに。
 でも、夜人は本当に誰なんだろう。 俺の親友らしいけど……なんか、そんな気もするし違う気もする。
(まず、俺に友達なんていたか?)
「赤崎くん」
「えっ、あ、ハイ!」
 ビクッとして返事をする。
いきなり、名前を呼ばれてびっくりしてしまった。
「はは、元気ですね」
梢さんが微笑むと、皆が大笑いする。
 その後、梢さんが皆の名前を読んでいく。どうやら、出席をとっていたらしい。考え事をしていて、周りの話を聞いていなかったようだ。俺は、自分が恥ずかしくなった。
「はい、出席も終わりましたし……席替えでもやりましょうか」
梢さんがにこにこ儚いスマイル。
「いぇぇぇえい!」「やったぁぁ!」
 周りから歓声が上がる。
 よく分からない。席替えなんか楽しいのだろうか?
荷物持って移動するから、めんどうくさいんだけどなぁ。
でも、梢さんが担任の方がクラスに活気があるな、そう思った。
俺がそんなことを思っている間にも、席替えの準備が進む。そして、くじを引かされた。
俺の席は……1番。黒板の席が書かれた表をみると、1番は真ん中の列の一番前の席。
(最悪、めっちゃ目立つじゃん)
隣の女は誰かなぁ……。
少し気になって、1番の女を目で探しながら、前の席に「さよなら」と言っておく。
 そして、席を移動すると、そこにはすでに隣の人がいた。
 俯き気味の彼女。柊 春夏さんだ。
綺麗な黒髪に、黒い目。 惚れ惚れするほどの美少女。
だけど、右手にはリストバンドをしていて、いつもうつむいている。

Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.41 )
日時: 2013/10/25 15:01
名前: 琴 ◆ExGQrDul2E (ID: Z6QTFmvl)

(可愛いのに、もったいないなぁ)
 そう思いながら、声をかけてみる。
「こんにちは。 柊さんだよね、よろしく」
話しかけると、柊さんはほんのりと顔を赤くする。そして、
「うん、よろしく……」
と控えめに返してくれた。
 柊さん、昔はもっと明るい女の子だったと思う。
中学は確か一緒だったはずだ。 いつも雪と仲良くしてた女の子だからよく覚えてる。
 だけど、なんか中三あたりからいきなり暗くなってしまった。原因は、なんか彼氏が行方不明になってしまったらしい。
 俺には彼女とか居ないから、その大切さはよく分からないけど、あの明るい彼女がこんなになるんだから、よっぽど大切な存在なんだろう。
 そんなことを思いながら、荷物を片付けて、椅子に座る。1番後ろの席のときより、梢さんが大きく見えた。これぞ、遠近法。
「よし、席替えおわったかな?」
梢さんが微笑みながら聞く。
その返事は様々だ。
「隣がいやだー」とか、「ここ、黒板が見にくいー」とか、他いろいろ。
「黒板が見にくい」はともかく、隣は誰でもいいだろ。
別に隣のせいで頭が悪くないこともないだろうしさ。
柊さんの方をちらっとみると、柊さんも俺の方をみていた。少し微笑みながら。
 だけど、それと目が合うと顔を赤くしてさっと目を逸らす。
(なんだよ、目が合えば逸らすとか)
 そう思いながら、彼女よりも奥の窓の外をみる。
見慣れた風景と離れてしまって少し惜しい気もした。
(あの車がまばらに通る道をぼぉーっと見つめるの好きだったんだけどなぁ)
 まあ、仕方ない。
 梢さんの方に視線を戻す。
梢さんは皆の好き勝手な意見に困っていた。
あわあわと苦笑しながら皆をみている。
「まぁまぁ、一ヶ月だから。 ね?」
「隣がいやだー」といった生徒はどうしても隣を変えろ、と粘っていた。
「嫌です、変えてください」
 ずーっといっている。
梢さんも、ついに折れたのか、
「仕方ないなぁ。 じゃあ、あなたの隣は今日は休みの緋崎さんにしようか」
といった。そういうと、男子生徒は嬉しそうに了承した。
 緋崎は、お得意の不幸体質でお休みらしい。風邪を引いたんだってさ、夏風邪は辛いよなぁ。
(というか、あの男子生徒は緋崎の横になりたかっただけじゃねーの?)
 でも、緋崎を好きになったら、後で大変なことになるぞ。と俺は直感して思った。

 そして、無事席替えは終了した。