複雑・ファジー小説
- Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.57 )
- 日時: 2013/10/25 15:17
- 名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: Z6QTFmvl)
殺人鬼が柊さんから離れた。柊さんは、崩れ落ちるようにして道に倒れた。
灰色のコンクリートに赤い液体が染み込んでいく。
その映像はとてもグロテスクだった。
……これは、信じたくない事実。信じたくないし、信じられない。
あの、柊さんが死んでしまったなんて。
殺人鬼は、そのままナイフを持ち、静止している。
俺の方を向くことはなかった。
「赤崎くんに……柊さんっ!?」
その時、後ろから声が聞こえた。
優しくて、かつ、怒りを抑えきれないような声。
俺は、この声を知っているし俺はこの声を嫌っていた。
そう。 梢さんだ。
「なにやっているんですかっ!」
梢さんがこちらへ駆けてくる足音がした。
俺は、殺人鬼をずっと睨みつけているから、梢さんの姿を直接見ることはできない。
しかし、梢さんは俺を助けるつもりらしい。俺の方へ足音が近づいてきているから。
「大丈夫ですか?」
梢さんが俺に聞いた。
「はい」俺は、短く答えた。
別に、面倒臭かったわけではない。ただ、そう返すしかなかったからだ。
俺は、不思議に思った。
なぜなら、梢さんがここまで来ても、俺に話しかけても、殺人鬼はこちらをみないのだ。
柊さんを、ナイフを持ったまま見下ろしているのだ。
普通なら、「これ以上動いたら、刺すぞっ!」とか言うものではないだろうか。 それとも、俺がドラマの見過ぎなのだろうか。
「では、 赤崎くんは先に学校に行きなさい。 後は僕がやりますから」
梢さんが、儚く優しい笑みを俺に向けた。
「……はい」
梢さんにかける言葉がなかった。
俺のために、こんなことをしてくれる。
そんなに優しい人が今までいただろうか。こんな、優しさを俺は受けたことがあるだろうか。
なんていえばいいのか、分からない。
俺は、走り出した。学校に向かって。
こんないい人は、学校の先生になればいい。
そして、生徒たちとずっとーーーー。
ザクッ。
後ろからは、何かにナイフが刺さる音がした。
希望を刺すような残酷な音。
……なにが刺されたのか。
俺は、考えられなかった。 いや、考えたくなかった。
「すいません、悠馬さん」
つぶやかれた言葉。 しかし、その声は俺のものじゃなかった。
【第九話 END】
