複雑・ファジー小説

Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.65 )
日時: 2013/11/04 15:46
名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: HSCcXZKf)

【第十一話】<衝撃>

「……」
 梅子さんを無言で見つめる。
いつも豪快で堂々としている梅子さんなのに、今日はすごくお淑やかだった。綺麗な、女らしさのある人だった。
「じゃあ、 俺は暫く退席しますね。 あとは梅子さん……お願いしますね」
 そういうと、時雨さんは煙草の吸い殻を片付けて店から出ていった。
時雨さんが出て行くのと同時に、ドアにつけられたベルの音が静かな店内にカランカラン、と鳴り響いた。
「真人くん。 実はね、あの物語には続きがあるの」
梅子さんが穏やかな口調で話す。
 聞き慣れたこの声は、とても安心した。 頷きながら、梅子さんの話を聞いていた。

 いまからずーっと前の話。
世界は一度、リセットされていた。
前の世界にも、丸菜学園はあったそうだ。スマートフォンもあったらしい。
だが、今の世界には前の世界にあるものの中で唯一ないものがあった。
 それは、人間だった。 その世界に住む人たちだけは、リセットする時に全て塗り替えられた。
 そして、そんなあり得ないことができる装置の名前は、「世界が終わるボタン」といった。
その名のとおり、ボタン型。黒い正方形で、真ん中に赤いボタンがついているシンプルなものだった。
 そのボタンを作ったのは、四人の男女。坂本寿樹、赤坂唯一、坂本日子、白咲紫音だ。
四人が台本を使って作ったのだ。
作り方は簡単。 台本に、「8/1 世界が終わるボタンの創造」と書いておけば直ぐに完成した。
 こんなあり得ない装置でも、この摩訶不思議なノートは作る事ができたのだ。
四人は信じられなかった。
台本を信じなかったせいで、赤坂と白咲は台本に殺された。 残った二人は、世界を終わらせる為に邪魔な人間は徹底的に排除した。 もちろん、台本の力で。
そして、ボタンを押した。
 その後の様子は凄まじいものだった。
ボタンから赤い光が飛び出したと思うと、それは屋根を突き抜けた。 光に貫かれた屋根がバキッと恐ろしい音を立てた。
 二人は逃げるように外に出た。 そして、そこをみて呆然とした。
赤い光が、人を建物を……全てを飲み込んだ。
どんどん光に吸収されていく。 ふと、自分たちの手をみた。自分たちも吸収されていっている。
 自分たちの体の色がどんどん薄くなっていき、かわりに真っ赤になっていく。

Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.66 )
日時: 2013/10/25 15:31
名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: Z6QTFmvl)

 そして、次の瞬間。
世界が真っ白になった。
 何もない世界で、あるのは二人の人間だけだった。
日子が寿樹を見つめた。
寿樹は、ニッと笑い、右手を日子にみせた。 その手には、台本が握られていた。
日子と寿樹は、そこの八ページ目にこう書き込んだ。

 ーー【1/1 新しい世界の始まり】。

「って、わけなんだよねーっ」
梅子さんが笑いながらそういった。
ニコニコとした笑顔は、いつもの梅子さんだった。
「その……日子さんと寿樹さんって人がこの世界を作ったってわけですか?」
「そうよっ、 いやぁ……大変だったわぁ」


 〈いやぁ……大変だったわぁ〉?
確かに、梅子さんはそういった。だけど、それはおかしくないか?
さっきの話はずっと前の話だし、名前も違うじゃないか。
なのに、なんで梅子さんが日子さんのような喋り方をするんだ。
俺が首をかしげた。
すると梅子さんが口に手を当てた。
そして、「……って、思うのよねぇっっ」と慌ててさっきの言葉につなげた。
……怪しい。これは、怪しい。
「梅子さん。さっきの言葉って……」
「なに? たっ、大変だっただろうな、と思わない? だって、世界を作るのよっ」
 梅子さんは、本当に慌てていた。
多分、俺の推測が間違えてなかったら、梅子さんは日子さんなのだ。
 なぜなら、俺は梅子さんの癖を知っている。 嘘をつく時には、手を口に当てるのだ。 今も手を口に当てながら話していた。
 それに、あの《台本》を、彼女は持っていた。
ならきっと、なんでもできるのだろう。
「梅子さんって、日子さんだったんですか……」
小さくつぶやいた。
その言葉に、梅子さんは反応したらしい。
「あら、分かっちゃった? なら、なんでここでこんな若く生きることが出来るか、分かるかな?」
梅子さんのいつもの爽やかな笑い。
なんで若くいられるか?
「世界が始まる時に、10年くらい若返るとかですかね」
「はははっ、残念っ。 世界が終わっても始まっても若返りはしないわっ」
そんなこと言われたら、わからない。
「ヒントをください」
 俺がそういうと、梅子さんは微笑みながら、
「そうねー、そのスマフォとか?」
といって、俺のスマートフォンを指差した。