複雑・ファジー小説

Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.73 )
日時: 2013/11/09 13:27
名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: 13dr2FCK)

【第十二話】<考えたくないな>

「てことは……」
 とても嫌な、考えたくないものが脳裏に浮かぶ。
 あたまを振って、その考えを消そうとしているのに、それは消えてくれない。あたりまえのように俺のあたまに居座っていた。すぐさま消えて欲しかった。
 そしてーー
「うん。 わたしが殺したわけ。 夜人とか、梢とか」
この目の前にいる女にも消えて欲しくなった。
 梅子さんはそんな人じゃなかった。
 いつも優しくて気さくで、俺の愚痴も聞いてくれて、ルックスも良くて。なのに、なんでこんな女になったのだろう。
 《台本》のことは、本当に信じたくない。 だけど、それは俺の目の前に立っている。実際、梅子さん……いや、梅子はそれに汚染された。それに、穢されたのだ。
 そんなこと、あり得ないのに。俺の平凡は壊されてしまった。そして、あたりまえのように非現実が目の前に現れた。 きっと、俺もその台本に汚染されている。二度と抜け出せないのだ。
 俺は、絶望した。 からだから力が抜けて、そのままへたり込んでしまった。
「ふふ。 善い世界ばっかりみてるから、そうなるのよ」
 梅子がこちらに歩いてきて、俺を見下ろした。
 なぜか楽しそうに、微笑んでいた。その顔は、あまりにも怖かった。
 この世のものとは思えなかった。
「あ……う」
 俺は怯えているのだろうか。 上手く声が出なかった。声を搾り出そうとしても喋られない。
「せっかくだから、 最期に教えてあげる。 あなたの父さんと母さんが喧嘩した理由」
 そういって、梅子は微笑んだ。 はるか昔の、柔らかな優しいあの笑顔。 もう、みることは出来ない『梅子さんの』笑顔。
 そして、俺の首に彼女は手をかけた。
「それはね、 君だよ」
ぐっと、力を入れられた。
「うっぐ……あ」
 息ができない。 喋りたいのに、反論したいのに。
 意識が遠のいていく。
(俺って、こんなに脆かったっけ?)
ぼうっとした頭でそんなことを考える。
「君がね、学校にもいかないから。 親に反抗ばっかりするから。 本当は咲子さん、君のこと大っ嫌いだったんだよ? 朔さんの方はね、まだ優しかった。 君のこと、よく気にかけてたから。 でも、君は勘違いしたよね? どうせ、『俺のことを気にかけてくれる人はいないんだ』みたいなこと考えてたんでしょ?」
 梅子が淡々と話す。確かに、その通りだった。彼女のいうことは、俺のすべてだった。
「それともう一つ」
 梅子は、さっきよりも手に力をいれた。
「あのスマホ、私が贈ったんだよ。 君にね」
そんなことを言われた気がする。
その時、既に俺は意識を手放していた。

Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.74 )
日時: 2013/11/04 17:17
名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: zpQzQoBj)

ーー「生」って、なんだろう。
 俺にはもうわからないんだ。
 心臓が動いていて、息をしている。それが「生きる」ってことなんだろうか。なら、他人から見捨てられて、孤独死しそうになっていても、心臓が動いていて息をしているからその人は「生きている」というのだろうか。
 確かに、そうなんだろう。 昔、雪とふざけて「生きる」と、「死ぬ」を時点で調べたことがある。
 完璧には覚えていないが、確か生きるの意味は、「人・動物が命を持つこと」と書かれてあったはずだ。そして、死ぬの意味は、「呼吸や息が止まり、命を失うこと」とあった。
 しかし、その下に、もう一つ「死ぬ」には意味があったのだ。その意味は、「活気がなくなる。 生気を失う」。
 その通りに考えると、「生きる」とは、「活気がある。 生気がある」という意味になる。
 そうしたら、俺は死んでいたのではないだろうか。
 俺は既に生気なんてなくしていたはずだ。しかし、俺自身も、そのことになかなか気づけなかった。だけど、あの時に気づいた。
『君は勘違いしたよね?』
 梅子の言葉だった。
 もう俺は、誰にも愛されてなんかいなかったのだ。柊さんとか、夜人とか……雛とか。 彼らは愛してくれなかった。
 いや、きっと彼らは俺を愛してくれていたのだろう。だけど、それにも俺は気がつかなかった。
「これが当たり前。 平凡な毎日」。俺はそう思い込んでいたから。
 だから、わからなかった。
 もし俺が、こんな不幸の塊じゃなかったら。親孝行で、友達もたくさんいて、学校は皆勤賞をとれる全出席で。そうしたら、未来は変わっていたのだろうか。
 俺がこんな男じゃなかったら、夜人たちは死ななかったのだろうか。
 どんどん、頭がこんがらがってきた。脳が混乱する。頭が痛い、身体中が痛い。苦しい、辛い。

 誰かに、それを分かってほしい。
でも、身体のどこかが分かって欲しくないといっている。
 矛盾している。全て、矛盾している。
 結局、俺がなにを求めても、それは与えてもらえなくて、俺がなにを信じても、周りは平気で嘘をつくんだ。
 でも、それは被害妄想。

 わるいのは、全部「俺」なんだ。

【第十二話 END】