複雑・ファジー小説
- Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.75 )
- 日時: 2013/11/04 17:42
- 名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: zpQzQoBj)
【第十三話】<赤く咲き乱れる梅の花> (梅子目線)
私は昔、人を殺した。
そりゃあもう、たくさん。数えきれないくらいに。だけど、私に罪の意識はない。
だって、相手が悪いことをしたんだから、仕方ないよね。
超売れっ子の男性俳優とか、冷徹な女子高校生とか、明るい少年とか。全員、悪いことをした。
彼らは、私に殺された。みんなは、私じゃなくて寿樹さんが悪いっていう。だけど、違う。 私が悪いんだ。
私にとって大切なのは「体裁」だった。 台本を手にいれてから、いえ、もっと前からそうだった。 体裁よりも大切なものなんてなくて。
あるとしたら、「命」くらいかな。
夫も大切だったけど、友人も息子も大切だったけど、結局体裁を前にしたら、彼らは全て「要らないモノ」に変わった。
そして、私は最低。
人をモノ扱いして、まるでチェスの駒のように自在に操った。青い駒と、青い駒。そして、黄色い駒。この黄色い駒はクイーン。 私のこと。
あとの二つは必要のないもの。 名前をつけられる価値さえもない。
私の名前は坂本 日子だった。
今は、白野 梅子。世界が変わる時に、私と寿樹で考えて、自分に名付けた。
「白い野に咲く一輪の梅の花」なんて、ロマンチックなことを考えた。 でも、実は白い野に梅が咲くはずなんてなかった。
「白い雪の野に咲いた、赤く染められた雑草の小さな花」実際は、こんな意味が正しかった。
一人ぼっちで、雪が積もった野原に生えた雑草。それの花が開いたとき、人の手によって汚染されて赤く染められてしまった。
ね?私にピッタリ。私はこの名前が大好き。
そして、寿樹は自分の名前を「高川 時雨」に変えた。
「川の上流の方から時雨が降っているように見える」
そんな感じの意味。 この国でしか実現できないことだ。
なぜなら、この国は川の流れがとても急だからだ。 山が急なのも、それの川の流れが急なことの理由の一つだろう。
寿樹は、自然が好きな人だった。 たとえば、庭を、四季の花で埋め尽くした。 それに世話も、自分できちんとした。 絶対に、使用人には触られさえしなかった。
唯一、自分の息子だった「光」には触らせてやっていた。 水やりなどのやり方を手取り足取り教えてやっていた。
しかし、私には触らせてくれなかった。
- Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.76 )
- 日時: 2013/11/07 23:33
- 名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: v8Cr5l.H)
まぁ、だから嫉妬したってわけじゃないけどね。
世話の甲斐もあってか、花はとても綺麗に咲いた。特に、春の一面のチューリップと菜の花は感動した。寿樹って凄いな、って心から思った。
まぁ、寿樹の話はここまでにしよう。
私は、目の前にいる男の子を見下げた。彼は、真人くん。夜人の大事な親友だった子。とてもイイコだった。私のいうこともよく聞いてくれたし、雪の相手もしてくれたし。
でも、もろいよね。 女の握力で死んじゃうなんて。 私の握力なんて35キログラムくらいなのに、それだけで死んじゃった。人間って、本当にもろい。
私……本当は殺したくなかったけど、殺さなきゃだめだったみたい。真人くんは、知っちゃったし、夜人のことも思い出しちゃったから。まぁ、私がそう仕向けたんだけどね。
Die Application。 このゲームアプリは普通ではない。明らかに、現実や当たり前のことを超えてしまっている。私が作ったものながら、あり得ないものだ。
その機能は、表面はただのRPG系で、サイコロを利用したゲームだ。
でも、本当の機能はそんなものじゃなかった。簡単にいえば、「このゲームのプレイヤーを殺す」ってゲームなわけ。それだけでは分からないと思うし、今から、詳しく話そうと思う。
このゲームでは、まずプレイヤー全ての本名とメールアドレスを管理人の名簿に登録される。これは、登録の時の利用規約に書いてあるけど、読んで居ない人が多いんだろうね。沢山のプレイヤーが居るから。
そして、その名簿に書かれたプレイヤーは、ランクが30を超えると生贄リストに登録されるの。そして、ここで出て来た「生贄リスト」。これにも大切な意味があるの。っていうか、これがこのゲームの本質の全てなんだ。
「生贄。 本当にいい響きの言葉」
このゲームのプレイヤーは、ゲームに負けるごとに、そこのボスとよく似た現実の人間に、いじめられたり殺されたりするの。 真人くんなら、剛くんとか殺人鬼のことかな。そして、そのプレイヤーが何らかの理由で殺された時に、その人は生贄となる。
そして、生贄リストに赤字で表示されるんだ。
なんでそれが生贄と呼ばれるか。 それも大切。 それは、プレイヤーの残りの寿命が私と時雨のものになるから。
さっき、真人くんに出した質問。
「どうして私がこんな若い姿でいられるか?」っていうやつ。正解は、これだった。
私と時雨は、沢山のユーザーから寿命をもらってた。だから、容姿もこのままで、ある意味不老不死。
だけど、その仕掛けだけじゃうまくいかない。だって、そうでしょ?「そのゲーム利用者が次々と謎の死」とかなったら、もう利用者はいなくなっちゃう。
だから、私はまた台本の力を借りた。 ゲーム利用者が生贄になったら、 自動的にその人と関わった全ての人からその人の記憶を消すの。
夜人の時もそうだったでしょう?それに、柊さんのときも。 真人くんからも、夜人や柊さんのデータは消えちゃった。 台本の力は、友情や愛情ももみ消してしまう。
この仕組みのおかげで、利用者は減らないし、私たちは不老不死になってるんだ。
私の年齢は、本当は今は59歳になる。だけど、このアプリのおかげで20〜30代の人生を続けられていた。
時雨も、私と同じ人生をおくっていた。
だけど、私たちはある契りを結んでいた。
「光の生まれ変わりである雪を殺さないこと。 そして、雪を悲しませることはさせないこと」だった。
雪は、ゲームの本質について知っていた。彼女は知っていたから、夜人の時も悲しまなかった。 泣きそうな演技をしただけ。
光も、演技が得意だったから。特に、青髪の女の子を死に物狂いで助けようとした演技なんて、本当に最高だったわ。 笑っちゃいそうなくらいに。
- Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.77 )
- 日時: 2013/11/09 21:37
- 名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: Cb0oSIti)
でも、私は破ってしまった。その契りを。私は、雪を悲しませてしまったのだ。雪は、夜人が死んだ時は演技で、悲しんでた。 でも……真人が死んだ時は、違ったみたい。
なんでそれを私がわかったか。それは、振り返ったらわかること。
「日子さんっ!!」
うしろから、大きな女の子の声が聞こえた。彼女の声は、間違えなく雪のもの。
多分、時雨さんが何処かに隠れてて、この様子を雪に教えたんだろうね。もし教えなかったら、雪からも記憶が消えてたのに。はぁーあ、残念。私が契り破ったことになっちゃったじゃん。
「ん、なぁに?」
私は、ゆっくりと振り返った。そして、驚いた。だって、彼女……泣いていたんですもの。
物心ついてから今まで、滅多に泣かなかった、いつも笑っていた、彼女が泣いていた。
「ひっく、なんで、まこと……ぐすっ……なんで、ころしたっ……のっ!」
とめどなく溢れてくる涙を拭いながら、雪は私にそう言った。
彼女は、怒っている。 親の私が今まで一度も見なかった彼女の憤怒の表情。それを今、彼女は私に見せていた。
「なんでって……必要があったからよ」
私は、動じないように冷たく答えた。ここで彼女に何かしら感情を込めて喋ったら、罪悪感が増しそうだから。
「……ぐすっ、うっ……ひっく」
彼女が泣いている。長年育ててきた娘の泣き顔なんてやはりみたくなくて。私は目を逸らした。
そして、彼女の足音がした。 次の瞬間、彼女は私の目の前にいた。
彼女は、真人くんの体を激しく揺すっていた。
「真人っ! 真人、起きてよっ!」
なんで、そんな一生懸命なんだろう。
私にはわからない。ここまでに一生懸命、彼を揺する彼女の気持ちが。 真人くんは他人なのに、なんで……。
「そんなことしても無駄よ。 もう死んでるわよ」
私は、そんな彼女に冷たい言葉を投げかけた。すると、雪は私の方を向いた。
「なんで? なんで、そんなこと言うのよっ……」
「事実ですもの」
彼女の言葉を遮って、冷たい言葉。私には彼女の気持ちはわからないから、こんな言葉しか投げかけることができない。
「日子さんは……寿樹さんが死んでも今のままでいられるの?」
「……っ!?」
私は、雪の言葉に戸惑った。
『寿樹』。
私にとって、一番大切な人。彼よりも大切な人なんて一人もいない。彼が私の全て。
彼がもし死んでしまったら? そんなこと、考えたくもない。 彼の不幸なんて、想像したくない。
雪の言葉は、完璧に私の予想を超えていた。彼女がこんな反抗的な言葉を出すなんて思ってもみなかった。
どう返せばいいのか……わからない。
「居られ……ない、と思うわ」
私は、小さな声で正直に答えた。すると、わずかに……本当わずかだけど、彼女の怒りの表情が緩んだ。
「でしょ? なら、私も一緒なのよっ!!」
彼女は、もう一度涙を拭った。 もう、目に涙は浮かんでいなかった。
……雪も一緒。
なら、雪は真人くんが好きなんだ。 彼を、この世で一番愛してるんだね。
「そう、なのね」
私はふふっと微笑んだ。優しさじゃなくて、残酷な……微笑み。
とても、愉快に思うの。
彼女の感情をぐちゃぐちゃに壊す。彼女を壊してしまうことは、すっごく楽しい。多分、今までの人生最高に。人を殺すのは楽しいけど、生殺しの方がもーっと楽しい。「契り」があるっていうスリルが最高。
真人くんが大切な人なら、彼女の周りの人もいっぱい消して、彼女を不幸のどん底に突き落としたい。
ーーこの子が光の生まれ変わりじゃあなかったら、きっと私はこの子の人生をぐちゃぐちゃに壊していただろう。
【第十三話 END】