複雑・ファジー小説
- Re: Re: The world of cards ( No.5 )
- 日時: 2013/11/29 20:44
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: INaKOfii)
とても気持ちがいいとは思えない浮遊感が、数十秒ほど続く。どこに落ちていっているのか、少女は一つも理解することが出来ないでいた。実際、浮遊感だけが錯覚で、墜ちていないという可能性も否定は出来ないのだ。
「ふむ、のせられたか」
少女はおちていきながら、小さく呟く。通行料がトランプであるということが胡散臭かったのだと、少女は転換した。ゆるゆると浮遊感が弱まっているのに、少女は気付きあたりを見る。
矢張り広がっているのは真っ黒な壁のような何かだけだが、確かに浮遊感は弱まっていっているのだ。少女は違和感を感じながらも、流れに身を任せる。
「やあ、また会ったね。可愛らしい、お嬢さん?」
聞こえた声は、先ほどの仮面の男によりものだった。
「なんだ、キサマか。ワタシに何かようでもあるのか?」
「用? ああ、あるね。渡し忘れたものがあってさ、はい」
仮面の男に渡されたのは、白抜きと同じ状態のハートのシルバーアクセサリだった。しゃれたことに可愛らしいチェーンのついた、ネックレス。仮面の下で、思わず口が開いた。
「なんだ……これは」
男に付けられたネックレスを手に取り、小さく漏らす。突拍子もないプレゼント、ということにも、よく知らない男から渡されたプレゼントということにも、少女はよく理解することが出来ないでいた。
通行料というものは、既に支払ったあとであるし、ネックレスを持ってきた覚えもない。じっと、男の仮面を見る。仮面越しではあるが、目があっているように感じた。
「それはね、通行料の変わりに君たちにあげないといけないものの一つさ。カタチは違っても、同じように繋がっている証拠。コレが無いと、何も出来ないんだよ」
君はもう、檻の中に入ってしまったんだよ。男は仮面の下で静かに笑った。少女は何か納得できないことがあるのか、ネックレスのチャームを指先でいじる。数秒の沈黙が、深い深い闇を晴らしていった。
「そうか、分かった」
「え」
「ん?」
変わらない口調で言った少女に、男は思わず間抜けな声を出す。
「なんでそんな簡単に受け入れたんだい? 普通、もっとこう、意味を聞いてきたりとか! 何に対しての通行料で、それの対価にネックレスをもらったことに疑うとか! 色々あるだろう? どうして、他の人がやってみせた行動を、君はしないんだい?」
エンジンがかかったかのように、男は言葉を繋げていく。少女の前にも、何人かに通行料を払わせたようで、そんな人たちの反応を思い出しながら話をしているようだった。
「そこまで言うなら、言ったとおりにしてあげようか? というか、此処からワタシはどこに行けばいいんだ? いい加減、この暗闇に飽き飽きしてきたのだが」
少女は少し雑な口調で、男に言う。男の発言には、いい加減に対応した。少女が感じていた浮遊感は無くなっていたが、近くに居る人くらいしか見ることが出来ない闇に、周りを囲まれている。
明確ではない答えに男は不満があるようで、とても小さな声で、もう少しで全てが開ける、と言った。最後の訪問者だったんだ、君が。そう、少女を見ながら言う。
その言葉通り、少し時間がたつと闇が薄れていった。ある一点から、少女と男の方へと光が差し迫ってくる。目があけられない程度の光に、仮面の下で目を閉じた。暗闇になれた目では、弱い光でも強い光に思えてしまう。
「ようこそ。可愛らしいお嬢さん」
男の声に、静かに目を開ける。
「うわ……」
少女は言葉とともに、静かに息を吐き出した。