複雑・ファジー小説

裏ストーリー ( No.111 )
日時: 2014/01/06 15:37
名前: ゆかむらさき (ID: siKnm0iV)

 波乱の塾4日目……にいく前に、ちょっと一息。
 カキコの雑談掲示板で、わたしのお友達、風猫様の“SS大会”で、以前載せた、ぶっ壊れ紳士(笑)高樹純平くんが主人公をつとめた裏ストーリーを挟みますね。


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 ————僕の名は高樹純平。純平の純は“純粋”の『純』。
 女の子に全く興味が湧かない……なんて事はないけれど、生まれてからずっと今まで一度も“恋”というものをした事がない。
 やっぱりみんなにいつも言われてる様に理想が高過ぎるのかな……僕。


 僕の両親は下着会社を夫婦で経営していて、海外に出かける事が頻繁にあってめったに家に居る事がない。家政婦のおばさんを1人雇ってはいるが、住み込み勤務ではないので、夕ご飯の支度を済ませると帰っていってしまう。
 仕事接待用とプライベート用、それぞれ1部屋ずつある応接間。3人家族なのに5つも設置してあるトイレットルーム。こんな広い家に夜はポツンと僕1人。
 小さかった頃は淋しかったけれども、もう慣れた。
 先日父さんが久し振りに家に戻ってきた。
 父さんの横にもう1人……僕が多分初めて会う男の人がいた。
 父さん曰く彼は幼馴染で占い師らしい。
 一目、焦げ茶色の肌をしている土木作業員の様な風貌。とても黒いカーテンを閉め切った暗い部屋で毎日水晶玉に手をかざしている、というイメージは湧かないけれども、彼の占いはとてもよく当たるものだと言っていた。主に事業経営や景気の流れ等を占う人だった。おそらく父さんの傍ら、お世辞を言ったのだと思うけれども、僕の手相を見た彼に、『将来、父をも超えるほどの人間になる』と言われた。
 僕は“ついで”に彼にお願いをしてみた。


「恋愛面も占ってください」
 ————と。


 一瞬曇った彼の表情を僕は見逃さなかった。
 『恋愛占いはしたことがない』と彼は言っていたが、絶対にウソだと思った。
 彼には“僕の恋愛の良くない結果”が見えたんだ。
「自信はないが……」
 彼は父さんの隣で言いにくそうに答えた。


 タイトル『一晩かぎりの月下美人(シンデレラ)』


 今夜7時から花火大会、か。
 僕には“健”という幼少時代からのくされ縁の同級生の友達がいる。見た目だけではなく中身までも、今流行り(?)のチャラい男だ。
 彼には“由季ちゃん”という、誰がどう見ても釣り合いがとれないくらいの美人の彼女がいる。小学生時代に(もちろん)健の方からダメモトで告白したら奇跡的にOKをもらえた事がきっかけで二人は交際を始めた。小さな事でちょこちょこケンカは絶えないけれども、なんだかんだいっても長く続いている仲良しカップルだ。
 健と由季ちゃん。あいつらの事だからきっと今夜、花火と一緒に“フィーバー”でもするのだろう。


『高樹に彼女ができたらダブルデートしような!』


 自分には恋人がいるからって余裕な顔で健のやつはエラそうに言う。 そんな事言って僕の彼女も一緒に“ダブルフィーバー”でもする気————って、友達の事をこんなに悪く言っちゃイケナイ。
 なんかひがんでるみたいでカッコ悪いな、僕……。
 最近熱帯夜が続くからなのだろうか。身体が熱い。
 部屋の窓を開けて夜風を浴びた。
 暖かい風の味を感じながら目をつむる————


 今年の夜も僕一人寂しく花火の音をBGMに未来の僕の恋人とのラブラブデートを想像しながらくつろぐとするか……。
 僕はキングサイズのベッドの上にゴロンと横になり、枕元に置いてあるファッション雑誌を手に取り、パラパラとめくった。
「ん? そういえば健のやつ、最近やけに浮かれてたな……」
 彼曰く、由季ちゃんとデートなんて“お泊りデート”までもう何回もこなしているはずなのに……。
 あの健のテンションはまるで“初めてデートをする”様な感じ————


 “彼女にバレない浮気の方法”


 偶然にも読んでいる雑誌の中のこんなコーナーに目が止まった。
 もしかして健のやつ……。
「————なーんて、ね」
 だから友達の事、こんなに悪く言っちゃイケナイって。やっぱりひがんでるんだな、僕……。


「 !! 」
 外から女の子のすすり泣く声が聞こえる。しかもその声は僕のよく知っている女の子の声にとてもよく似ていた。
 窓からそっと顔を出して覗いてみると、やっぱり思った通り————由季ちゃんだった。


 浴衣姿の由季ちゃん。彼女は僕の部屋を見上げながらずっと泣いていたのだろうか。呼び鈴も押さずに……。
 僕の姿に気付いた彼女は慌てて走り去った。
 彼女は僕に助けを求めている————そんな気がして僕は部屋を飛び出した。
 ————放っておけない!!
 玄関を飛び出し、彼女の元へ向かった。


     ☆     ★     ☆


 僕の部屋のベッドの上に腰を掛けて……僕の淹れたジャスミンティーの入ったカップに口をつける由季ちゃん。
「やっぱり合わんかったんだぁ。わたしたち……」
 震えた声で大粒の涙をこぼしながらジャスミンティーをすする。
 もう何も話さなくて、いい……。
 ベッドの上のちょうど“彼女にバレない浮気の方法”のページで開かれっ放しになっている雑誌を慌てて閉じて、僕は彼女の小さな肩に手を乗せ……ようとして止めた。
 由季、ちゃん……。
 信じられない。
 衝動的に自分からこんな展開にしてしまったのだけれど、由季ちゃんが1人で……“健の付いていない”由季ちゃんが僕の部屋のベッドの上に————
 普段は細いウエストと長い脚を強調したスリムジーンズでクールにビシッとキメている彼女がしっとりと女の子らしい淡いブルーの浴衣姿で……。
 普段は下ろしている艶やかな腰まであるロングヘアーを今夜は一つにまとめておだんごにして。
 僕は視線でゆっくりと彼女の首すじを撫でた。
 少し着崩れた浴衣の後ろ衿の中からセクシーに覗く彼女の背中を見てつばを飲み込む。その奥はいったいどうなっているんだろう……。
 健が宝物を見せびらかすように僕に話していた“由季ちゃんの裏の顔”が僕の頭の中にぼんやりと浮かぶ。


『由季さぁ、普段ああだけど、ベッドの上では従順で、俺のお願い何でも聞ーてくれんのよ。
 感じやすいんか、俺のテクが上級レベルなんかは分からんけど喘ぎ声がまた……』


 な、何思い出してんだよ! 僕っ!!
 健のせいで余計に由季ちゃんの顔を見る事ができなくなってしまった。
 カタカタと由季ちゃんが手に持っているカップが震えている。
 僕はおそるおそる彼女の手から視線を上らせてゆく。
 普段はいつも……言っちゃ悪いけど“男らしい”、誰に対しても対等で媚びたりしない、さばけた強いはずの彼女が真っ赤な目で僕の顔をまっすぐ見て震えている。
 今ここで……僕が抱き締めたらバラバラに壊れてしまいそうに————


 ドドドドーン!
 夜空全体に響き渡る音と共に窓から降り注ぐ眩しい光。
 花火大会のオープニングが始まった。
「相手が“僕”じゃあ、全然物足りないかもしれないけれど……今夜は一緒に楽しんでみる?
 綺麗でしょ? ここからでも充分に見えるんだよ、花火」
 ————本当はこんな台詞を言いたいんじゃなかった。
 僕の本心は……。
 もしも由季ちゃんが健の彼女じゃなかったら————


「やさしくしないで!!」


 今度こそ彼女の肩に手を乗せようとしたら大きな声で思いっきり弾き返された。
「男なんて大ッ嫌い!! 健も! 高樹くんも! みんな大ッ嫌いッッ!!」


 そう言いながら由季ちゃんは————僕の胸に飛び込んできた。
 窓の外で1発ずつ上がるイタズラな花火が、僕が必死で眠らそうとしている欲望を覚まそうとする。
 震えている由季ちゃんの背中に手を回し、僕は彼女のくちびるを奪った。


「ねぇ、由季ちゃん……。
            この浴衣……自分で着たの?」


 由季ちゃんの浴衣の掛衿を掴んでいる僕の手も震えている。
「ごめん。これじゃ僕も健と同じだね。今、チャンスだって思ってる。
 “やられたなら、やりかえせばいいじゃないか”って。
 由季ちゃんが“いや”なら、僕すぐにやめるから……」


     ☆     ★     ☆


 僕は気まぐれで由季ちゃんを抱いた。
 嫉妬でも愛情でもない。ただの興味本位で。
 彼女には悪いけれど、アレはひと夏の過ちだと思っている。
 僕にとっては生まれて初めての盛大な“花火大会”が終わり、頬をピンクに染めて涙の跡を消した彼女はたった今家へと戻っていった。
 彼女は今、何を思っているのだろう。
 “何処へ”戻っていくのだろう。
 きっと彼女の心の宿り場、健の元に再び戻っていくのだろう。
 僕とは一切合財何もなかったのだと、そんな風に。


 ————そう。父さんの知り合いのおじさんの話……あの時は半信半疑でまともに聞いていなかった占いの結果を今頃になって思い出した。


「近いうちにあなたは恋に落ちるでしょう。
 落ちる……というか溺れる、と言った方がいいですね。
 純平くんの方から夢中になってしまうくらい、あなたの心を惑わす女性が現れます。
 しかし、その恋の前にはとても大きな障害の壁が立ちはだかっています。覚悟をしておいてください。
 欲望にまかせて突っ走らないように……」


《おわり》


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高樹くん主人公の裏ストーリー『一晩かぎりの月下美人(シンデレラ)』はこれで終わりです。
次回から本編に入ります。