複雑・ファジー小説

『情けなさすぎる主人公』 ( No.3 )
日時: 2014/12/12 15:42
名前: ゆかむらさき (ID: dZI9QaVT)

「武藤さん。今日の部活はいいから、後で職員室に来てください」


 ————先生に呼び出しされるの……今学期始まってこれで何度目、だろ。


 ここは、あたしの通う中学、原黒(はらぐろ)中学校。少女漫画に出てくる様な全寮制のお嬢様学校でもなくオリンピック出場を目指す様な部活動熱血学校でもない、ごくごく普通のどこにでもあるような学校。


 先日、三者面談があったばっかりのはずなのに。
 まだ注意し足りないところがあったのかな。
『お母さん。なみこさんの学校生活の事でちょっと気になるところがあるのですが……』
 気になる……かぁ。
 どう見ても気にしてるっていうよりも“気に障る”って言っている様な先生の表情。
 会話の合間にあたしの顔を見ては、先生もお母さんも溜め息をついて目を逸らす。
 三者面談のほんの僅かな15分間つらつらと文句の言われっぱなし……まるで人格を完全否定され続けている様で、とても苦痛な時間だった。
 どうせ、今回もいつもの様にガチャガチャと“ああしろ、こうしろ”言われるのだろう。 
 多分、先生にとって扱い辛い、迷惑な生徒だから。
 どっしりと重たい教室のドアを開け、廊下へと出る。今日何度目か分からない溜め息をつきながら。


 放課後。
 これからは部活動の時間。体操服に着替えたクラスメート達が、着替えずにセーラー服姿のままで職員室へと向かうあたしの姿を面白そうにチラチラと見ながら廊下の端に逃げる。
 迷惑な生徒、とはいっても、別にケンカっぱやいってワケではない。……っていうか、ケンカができる相手も度胸すらもない。 
 校則は一応は守っている。 
 彼氏がいるとか、オシャレの流行に敏感で興味を持っているとかいう様なクラスの女の子達はスカート丈を若干短くしている。正直膝丈の子の方が少ない、と言ってもいいくらいだ。ちなみにあたしは両方共当てはまらないのでキッチリ真面目(?)に膝丈だし。 
 学校の日は毎朝お母さんに布団を取り上げられる起こされ方ですっきりと目覚め、登校時間に間に合う様に強引に家から追い出されるからよっぽど遅刻なんてものはしない。 
 そして面倒臭いと思いながらもサボるという度胸も無いし、仲のいいお友達もいない事で授業も毎時間最後まできちんと受けている。ただ、教科書は学校にいる時にだけ“飾り”として机の上に置いているだけで、家ではめったに開いた事はない。先生が『テストにでるぞ』と言った要点箇所を蛍光ペンでラインを引いた跡など無く、新品同様でとても綺麗だけど。 
 そう。解かりやすく言えば学校には勉強をしにではなく、お昼の給食を食べに通っている、という感じ。
 所属している陸上部にもきちんと参加している。参加、とはいってもいつもストップウォッチ片手にゴール地点でボーッとつっ立っているだけでひとっ走りもせずに終わるだけだけど。


 学校。
 あたしの生活空間のなかで、ここ程に面倒くさくて、苦痛なところは無い。


 職員室へ続く廊下がひんやりと肌寒く感じる。
 どうせ、先生に何を言われたって、あたしはこのまま————


「しつれい……します」


 そっと職員室のドアを開け、足よりも先に顔だけ出してみると、目の前でまるであたしが来るのを待ち構えていた様に腕を組んでいる先生がドーンと立ちはだかっていた。


     ☆     ★     ☆


 案の定、先生の言いたい事は全教科、平均点の半分にも及ばないあたしの成績の事。そして人とコミュニケーションの取るのが苦手な性格の事だった。
「頑張ればできる」
 口ではそう言っているけれど、『どうして君はそんなに要領が悪いんだ』と、組んでいた両腕を腰に当ててあたしを上から見下ろしてくる先生。冷たく血走った瞳から心の声がビシビシと伝わってくる。
 目を合わすのが怖い。
 我慢ができなくなって逸らしたら、
「真面目に聞きなさい!!」と叱られた。
 もう早くおうちに帰りたい……。
『保護者の方にも話をしておいた』————なんて言っていたけれど、一体何を吹き込んだのだろうか。
 まさか『塾に通わした方がいい』とか言って薦めたりなんかしていないだろうか。
 はっきり言って“ありがた迷惑”だ。不幸にも1年生の時から続いてあたしのクラスの担任の……しかも陸上部顧問というヒドイ巡り合わせなこの先生、森田金八先生は熱血どころか一方的に自分の理想を押しつけてくる人なんだ。
『頑張ればできる』————
 できないよ……。どうやったら頑張れるの? 
 他人事だからって自分を基準にした様な言い方で簡単に言わないでよ……。
 そんな事言われたって、どうしようもないんだもん。こんなあたしの性格じゃ————


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 カラスが寂しく鳴く夕暮れ時。
 とある平凡な住宅街の細く歩道のない道端でオーバーな身ぶり手ぶりで何やらペチャクチャと話に花を咲かせている、歳は40代後半のおばさん2人。
 そこに学校帰りだろうか。セーラー服を着た天然パーマのショートヘアの小柄な女の子が下を向きながら歩いて通り掛かる。
「あらっ、なみちゃん。こんにちは」
 先に彼女に気付いた、痩せている方のおばさんが声を掛けてきた。
「……こんにちは」
 顔を少し上げて恥ずかしそうに返す女の子。


 彼女の名は武藤なみこ。中学2年生。
 学力はガッカリするほど落ちこぼれ。恋愛経験、まるっきしなし。親友、ナシ。


 そんなグダングダンな彼女に、実はこれからスッゴいコトが次々と起こるのデス。
 一体何が起こるのかって?
 ソレは読んでからのお楽しみです。