複雑・ファジー小説

『祝・ドキドキ初デート』 ( No.63 )
日時: 2013/11/04 09:41
名前: ゆかむらさき (ID: UJ4pjK4/)

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「うーん、ふあぁっ」
 あたしはあくびをしながら伸びをした。
 どうやら昨夜カーテンを閉めずに寝てしまった様で、ベランダの大きな窓から眩しい日差しがあたしを思いっ切り照らしている。
 さっき“すごい夢”を見たせいなのだと思う。ベッドから落ちている。多分その時に打ったのだろう、ジンジンと痛むお尻。 
 ベッドから半分ずり落ちている掛け布団を足を使って元に戻して、いつも以上にボサボサになっている髪を手ぐしで整えながら起き上がった。
 このまま起きようか、それとも、もう一度寝てしまおうかと真剣に考えながら、あたしは着ているパジャマをポイポイと脱ぎ捨てて、いちごの柄が散りばめられたタンクトップとパンティー姿になった。
 窓越しに自分の部屋からよく見える松浦くんの部屋。
 模試の日が近いからなのだろう。どうやら昨夜から徹夜をして勉強をしていたらしい。いつも外出しない時もツンツンにキメている髪の毛をペタンコにしたまま教科書を見ては真剣な顔でノートに何やら書きこんでいる。
「松浦くん。がんばってるなぁ……」
 寝ぼけまなこの目を擦りながらあたしはつぶやく。
 多分(学校の)クラスのみんなは毎回こんなに頑張ってテスト勉強をしている松浦くんの姿を知らない。
 みんな彼の事を“勉強しなくても、できちゃう人”だと思っているから。
 この彼の秘密を知っているのは、きっとあたしだけしかいない。


 いい加減起きればいい時間なのに、まだ意識を半分以上も夢の世界に残しているあたしは、そのままその格好で再びベッドに横になり、ゴロゴロしていた。
 おへそを丸出しにして、もう少しで胸が見えるくらいギリギリの所までタンクトップをめくり上げらせて————
「ん、んーっ」
 ちょうど傍に転がっていた抱き枕に手と足で一緒に抱きついて、
「えへ。二度寝って、最高」
 またしてもカーテンを開けっ放しのままで、だらしなくゴロゴロと転がって一人ではしゃいでいた。
 ————パジャマを脱ぎ捨てて……の所から、あたしのあられもない姿を実は松浦くんにバッチリ見られていた事も知らずに。


「ふぅっ」
 あたしは抱き枕にうずめていた顔を離した。
「高樹くん……。今、どうしてる、かなぁ……」


「 !! 」
 今日って、何曜日だったっけ!!


 抱き枕を投げ捨て、ベッドから飛び出したあたしは、壁に掛かっている日めくりカレンダーの元へと走った。
 “土曜日”の青い数字を見てあたしの顔も青ざめた。
「今、何時!?」
 カレンダーを1枚破き、時計を見てもっと青ざめた。


 9時15分。目覚ましセットするの……忘れちゃった!!


 念願の高樹くんとの初めてのデートなのに、いきなり何をしでかしているのか。あたしは半泣きで自分で自分を責めながら、タンスの中から適当に手に取った服を慌てて着た。
 開けた引き出しは開けっ放し、開けたドアも全て開けっ放しにしたままで、
「いってきまーす!」
 最小限のエチケット……洗顔と歯みがきだけはしたけれど、朝ご飯も食べずに家を飛び出した。


「ちょっとあんた! どこ行くかくらい言ってから出掛けなさいっ、なみこっ!」
 玄関のドアから、しゃもじを片手に顔を出してお母さんが大きな声で何やら叫んでいるけれど、あたしは今それどころじゃない。


 ごめんね高樹くん……。もう! ホントあたしバカ!!