複雑・ファジー小説

ステージ1 「私立麗美高等学校」 ( No.3 )
日時: 2013/10/08 22:24
名前: 417 (ID: ptyyzlV5)

【二】


視界はすぐに開けた。

あの慣れない浮遊感も消えて、同時に慣れてしまった“ひゅぃんっ”という音が聞こえる。それはこのゲームの開始を合図する音だった。

『サバイバルアクションゲーム《ギミック》へようこそ!!私はナビゲーターを務めます、トイズです!!ゲーム開始前に簡単な説明をお送りします!!』

音の招待は目の前に現れた光の球である。こぶしほどの大きさのそれは、続けて言葉を発した。

『このゲームはリアル脱出系RPGです!!《ステータス》に基づき、皆さまの強さが変化します!!ステータスは携帯のメニューからいつでもご覧になれます!!』

4回目の俺はこの先のセリフを知っている。ナビゲーターは、明るい声で残酷な内容を俺たちに突きつけるのだ。

『ゲームクリア条件は至って簡単です!!この学校のどこかにある出口から、鍵を使って脱出してください!!鍵は参加者の《命》です!!他プレイヤーを死亡させると自動的に鍵が手に入ります!!なお、脱出可能なのは1名のみです!!鍵は、全て手に入れないと脱出できません!!』

そう、このゲームは人殺しのゲームだ。誰かを殺さないと自分も死んでしまう。いわば、バトルロワイヤル。

『詳しい内容はヘルプをご覧になってください!!それでは皆さまの後武運をお祈りしております!!』

言い終わると、光の球は消えた。改めて辺りを見回してから、携帯を開き位置情報を確認する。

「第三校舎二階か…とりあえず、屋上にいくか」

どうやら今いる位置は歴史教室なる場所らしい。携帯を開いたついでに一通り他の参加者も確認して、それから携帯をしまう。

さらに教室から出る前に、掃除用具入れとごみ箱を確認していく。ごみ箱から収穫は得られなかったが、用具入れからは小さな鉄の塊を発見したのでポケットへと入れた。

教室の扉を静かに開けてそこから出る。周囲に気を配りながら、なるべく気配を消して息を殺し、屋上へと急ぐ。

三階まで上がり、四階へと行こうとしたところで俺は急いで階段を駆け下りる。二階まで来たところで渡り廊下をダッシュして第二校舎へ移動、そのまま適当な教室に入って内側から鍵をかけた。

腰を下ろして窓から姿を見えないようにするのと、足音がするのはほぼ同時だった。コツン、コツンと音がして、それは、教室の前を横切っていく。

音が完全に聞こえなくなると、俺は一つため息をついた。

「初めから【ギミック】に当たるとか……ついてねぇ……」

【ギミック】。それはこのゲームの名前であり、このゲームの醍醐味であった。

このゲームでは幾つものトラップが仕掛けてある。それらの総称が【ギミック】。これを利用し、戦う力を持たないものは鍵を手に入れるのだ。

先程俺が当たったのはモンスター系ギミックである。RPGで言えばフィールドに出てくる敵であるが、その強さはとてつもない。今の俺のレベルでは到底敵わないし、いったいどのレベルになれば敵うのかもわからない。

つまり、ソイツを見つけたら逃げる、というのが正解の選択である。ただし場合によってはスピードが車並みのヤツもいるので、要注意なのだが。

ともかく。幾つものルールによって縛られたこのゲームはクリア困難なものである。それでも俺は、目的があるのだから、死ぬわけにはいかない。

「……よし、やるか」

誰に言うでもなく呟き、俺は瞬きを一つして立ち上がった。