複雑・ファジー小説
- ステージ1 「私立麗美高等学校」 ( No.4 )
- 日時: 2013/10/09 12:33
- 名前: 417 (ID: vlOajkQO)
【三】
教室から出ると決めたのはいいが、よく考えればこれはチャンスである。
普通、こういった部屋は鍵が壊れており閉じ籠ることはできないようになっている。先程は無我夢中だったためまったく意識していなかったが、これほどの幸運はもう訪れないと思っていいだろう。
こういう場合、どこかに鍵が隠されていて結局は安全ではなくなるのだが、ゲーム開始直後の今なら大丈夫だろう。そう鷹をくくった俺は改めて教室を見渡した。
「机が42個に、教卓か……普通の教室だな」
いや、違う。と、自分で言った言葉を心の中で否定する。
よく考えてみれば、鍵のかかるタイミングがよすぎる。このゲームがこうもうまくいくはずがない。きっと、何かここにも【ギミック】があるはずだ。
もう一度教室をゆっくり見渡す。何か可笑しな所はないだろうか、机、床、天井……
「見つけた」
あった。今までも何度か見てきた【ギミック】の特徴が、そこに。
俺はゆっくり教卓へと近づく。そして——
“ガダンッ!!”
教卓を、思いっきり蹴った。
ステータスによって補正された俺の筋力により、教卓は難なく形を歪ませて倒れていく。完全に倒れる前にしゃがみこめば、やはり俺の頭上を3本の矢が飛んでいった。
さらに足元に向かって5本の矢が飛ぶ。それを後ろへ飛んで回避すれば今度は右側から2本。近くの机を倒して盾にすることで回避すると、ピロロンッと音がした。
『ミッション系ギミック【3本の矢】が開始されました!!クリア条件は教室のどこかにある3つに束ねられた矢を折ることです!!』
「っしゃ、ラッキー!!」
にたり、と口を歪ませて次から次へと飛んでくる矢を回避していく。このギミックは比較的簡単にクリアできる上に、報酬も高い。今までの経験でそれはわかっていた。
「っと、……とりあえず、【祈り】発動」
前回のゲームで手に入れたばかりの能力を発動させれば同時に体が白い光に包まる。
特殊能力【祈りスキル】。全ステータスの大幅アップ。継続時間はレベルに依存。俺の祈りスキルのレベルはまだ1なので継続時間は短いが、それでも10秒もある。
発動を確認すると教室の目をつけた部分へ一直線に走る。途中で飛んでくる矢は、補強されたステータスによりダメージを受けることなく跳ね返されるため、まったく気にしなくていい。
あと三秒、というところで俺はそれを見つけた。最初に蹴った教卓の影に隠れていたそれを手に取り、思いっきりへし折る。
『おめでとうございます!!ミッション系ギミック【3本の矢】をクリアしました!!報酬が用意されています!!お受け取りください!!』
あの声が頭に響くと、教卓が光を帯びて形を変え、弓へと変化した。
さらにファンファーレがなって、『おめでとうございます!!』と再び声が響く。
『【祈り】レベルが2に上がりました!!継続時間が増えました!!』
案外簡単にレベルが上がったな、と思いながらその弓を手に取る。使い慣れた鑑定スキルを発動させると、弓の横に文字が現れた。
【アイテム名:邪破の弓
所属:武器
説明:対魔用の弓。矢がなくても弦を弾くことで攻撃が可能。職業制限はない。レベル制限25。対人用でもある。酷使すれば壊れてしまう】
「酷使すれば、か。なら、なるべく温存だな」
それでもいいものを手に入れれた。特に、職業制限のナシは大きい。レベル制限はあるが、今の俺のレベルならまったく問題ない。
「さぁて、それじゃあいきますか」
少し気分も上がり、俺は口元に笑みを浮かべてそう言った。