複雑・ファジー小説

第零章 ( No.1 )
日時: 2013/10/29 18:06
名前: シイナ (ID: 6Nc9ZRhz)

第零章


—この世界で関係を持たないモノなどない。全てはうまれた時、あらゆるモノと関係を持つ。故に、この世の全てと私は繋がっている。

偉大なる魔術師<アレストラ>

▽▲▽▲▽▲▽▲

カチ、カチ、と時計の音だけが部屋に響いていた。それらはいくつも重なりあい、まるでひとつの音楽を奏でているかのようである。

壁にかけられた何千という時計が紡ぐリズムは不規則だが、決して不協和音というわけではなかった。

聴く者に不思議と安心感を与える心地よいリズム。それが、もう数十年も続いていると知るものは少ない。

カチ、カチ、カチ、カチ、カカチ、カチ、カチ、カチ、チカチ、カチ、カチ、カチカ、チカカチ、カチ、カチ、カチチ、カチ、カチ、カチ————

カチリ。

と。不意に、一つの時計が止まった。それからまた一つ、さらにひとつと、どんどん時計が止まっていく。

五分後、とうとう全ての時計が止まった。もともと時計の刻む音しかしてなかった室内は、完全な静寂に包まれる。

「時計が、止まった…?」

静になった室内に突如響いたソプラノ。声の主はひとつの時計の影から現れた。

「ああ…なるほど。そういうことか。ん…それでも予定より早いな」

ローブを纏ったその人は、大事そうに近くの時計に触れる。小柄であり、身長はおそらく150cmもないだろう。

「まぁ、いいか。たった三十年ほどズレぐらい、なんとかなるだろう。それよりも、今は準備をしなくては」

ローブの内側から取り出された小さな銀色の塊。数秒ほどそれを見つめ、再び内側に仕舞うとゆっくりとその人物は時計から離れていく。

「それじゃあ、しばらく、バイバイ」

キィィと音をたてながら扉が閉まる。

フードから僅かに覗いたその目は、どこか憂いを帯びていた。