複雑・ファジー小説

第三章『巻き込む者と巻き込まれる者』 ( No.10 )
日時: 2013/11/04 21:26
名前: シイナ (ID: ptyyzlV5)

【1】

▽▲▽▲▽▲▽▲

独りの方が、寂しいけれど楽なんだ。

▽▲▽▲▽▲▽▲


「ん、なかなかの出来だな」

手に持ったバルーンを様々な方向から見て、俺は一人呟いた。

花の形を模したそれは、今日、優香のお見舞いへと持っていくつもりのものである。

俺があいつのお見舞いへと行くとき、持っていくのは大抵花かバルーンだ。

理由は至極単純で、あいつが花、特にひまわりを好んでいるからだ。

前回、花屋の店員に選んでもらった花を持っていったので、今回はバルーンを持っていくことにした。

黄色の風船で作られたそれは、結構真剣にやっただけあり、なかなかの出来栄えである。これなら、あいつも喜んでくれるだろう。・・・もっとも、あいつの場合は何を持っていっても喜ぶのだが。

「さてと、行くか」

作ったバルーンを少し大きめの紙袋に入れて、財布とスマホを持った事を確認してから俺は外に出る。

暑いのがめっきりダメな俺が、夏に自主的に外へと出るのはお見舞いの時だけである。もちろん、水分も忘れずに鞄へと入れてあるのだが。

「にしても…暑いな」

ジリジリと照りつける太陽を睨んで、俺はニュースを思い出す。

今日の最高気温は41度。とうとう40度超えだ。

それでも俺は、こうして病院に向かっている。それは、あいつのお見舞いになかなか行けないという理由と、もう一つ。

「なんだかんだ言っても、俺も楽しみなんだよな…」

口元を緩ませて、俺は言った。

少しだけ、歩くスピードを速くして、俺は病院への道を進んだ。

第三章『巻き込む者と巻き込まれる者』 ( No.11 )
日時: 2013/11/06 06:59
名前: シイナ (ID: 1T0V/L.3)

【2】

道を歩くこと約10分。俺はある違和感を覚えて立ち止まった。

「あれ…この道って、こんなに長かったか?」

いつも通る道。住宅街を抜けた後、交差点を避けるために通る小道である。正確な距離は分からないが、俺の足なら、5分あれば十分なハズだ。

違和感はそれだけではない。

「なんか、寒くないか…?」

夏だというのに、風が少し冷たい。

どういうことだ、と思い、考えるため足を完全に止めた、そのとき。

【GYAAAAAAAAA!!】
獣の遠吠えのような、叫び声のようなものが聞こえた。そしてさほど時間を置かずに。

「うぁっ!!」

そんな短い悲鳴と共に人が飛んでくる。驚き声が出ない俺は、その顔を確認して、更に驚く。

「あんた、柏葉か!?」
「キミは…!?」

柏葉柚葉。優香の親友らしく、話したことは無いが、何度か一緒にいるのを見たことがある。

そんな彼女が一体なぜここにいるのか。それを聞く前に第三者の声が響いた。

「ぬぅはぁっ!!おいおいもう終わりかよっ!!俺様がっかりだぜぇっ!!って、あ?一般人?ぬぅはぁっ!!僕ボク様聞いて無いんだけどっ!!」

現れたのは、黒髪に赤目の青年だった。高級そうなスーツを身に纏い、そして、手には。

「ナイフ…?」
「っち」

呟くとほとんど同時に舌打ちが隣から聞こえ、俺は腕を引っ張られた。

「【我が契約せしは死してなおその想いのみで生きる魔王なりっ!!この血に応え、今姿を現せ!!】」

「はっ!?何言って…!?」

突如叫びだした柏葉への俺の疑問は、最後まで紡がれることはなかった。何故なら。

『…我を呼んだな、娘よ』

そこに、鎧を纏った一人の男が現れたからである。

第三章『巻き込む者と巻き込まれる者』 ( No.12 )
日時: 2013/11/07 17:51
名前: シイナ (ID: VhEnEiwQ)

【3】

「アイツの足止めよろしく」
『承知した』

現れた男は柏葉に頷くと腰の剣を抜いて、俺たちに背を向ける。現状が飲み込めずただ立っているだけの俺を柏葉は引っ張って、再び走り出した。

「なっ、おい!!あの人は!?」
「アイツは私なんかより全然強いから大丈夫!!詳しいことは後で説明するから今は走って!!」

焦ったようにそう言う柏葉に、俺は一瞬迷うも、ついていくことにした。

どこをどう通ったのかは全くわからないが、気がつけば大通りに出ており、あの奇妙な静けさも、嘘のような寒さも、元通りになっていた。

「ここまでくれば大丈夫だと思うよ」

隣で、僅かに息を切らせた柏葉がいう。

「なぁ、さっきのなんだよ。どうなってたんだ?」

俺が問えば、柏葉は「それは…」と少し考え込む。しかしすぐに俺を見て、彼女は言った。

「ここじゃあ話しにくいし、場所を変えよう」


▽▲▽▲▽▲▽▲


「こっちよ」

そう言って彼女が俺を案内した場所は、見覚えがありすぎる場所だった。

立派な庭を持つ、大きな日本家屋である。

柏葉は遠慮無くずかずかとその庭に入り、玄関の扉を開けた。

「あれ、境会きょうかいの魔術師だったりとか。どうしたのさ」
「部屋を一つ借りるね。こいつ、『終わらない終焉エンドレス』との勝負に巻き込まれたから説明するの」
「あぁ、成る程。そういうことなら好きに使って…」

そこまで言うと、声の主—亜季夕魔は固まった。

「え、君って、え」
「あー、昨日はありがとう」
「いや、別によかったりとか…じゃなくて。巻き込まれたのって、君?」
「今の話だとそうらしいな」

お互い状況を飲み込めてないらしい。「とりあえずあがれば?」「あぁ、そうするよ」それだけしか会話は続かなかった。

「…知り合いなの?」
「まぁ、昨日色々あったりとか」

柏葉の疑問に亜季が答えると、彼女は「ふうん」とだけ言う。

「じゃぁ、君も一緒に説明すれば?どっちにしろ、彼はこっちを知ることになるんだし」
「…そうだね。境会さえよければ同席させてもらうよ」
「構わないわ。あなたたちは第Ⅰ級だし」

とりあえず、誰か俺に説明して下さい。

第三章『巻き込む者と巻き込まれる者』 ( No.13 )
日時: 2013/11/08 18:29
名前: シイナ (ID: NywdsHCz)

【4】

彼らの話を纏めると、こういうことらしい。

この世界には魔法という概念が存在する。

世界に生まれてきたその時点で全てのものは魔力を持ち、その中でも特に多くの魔力を持つのが『魔法使い』である。

この『魔法使い』は世界中に散らばっており、基本的にどこかの組織に所属しているらしい。

『魔法使い』のタイプは主に三つ。一つ目は『魔法使い』を束ねる『境会』に所属しているもの。この割合は七割で、大抵のものが『境会』と契約している。

二つ目のタイプが境会に所属していないフリーの『魔法使い』。これは約二割ほど。基本的にお金で雇われるか、利害が一致したときのみ、どこかの組織に臨時加入する。

そして三つ目。これが今回、俺がこうして説明を受けている理由となるのだが、この約一割の例外がかなり厄介らしい。

彼らの名前は『終わらない終焉エンドレス』。境会へと反逆した、『禁忌犯しの魔法使い』たち。

そもそも境会とは、一般社会でいう政府と警察を合わせたのようなもので、決まりごともいくつかここが定め、それを破ったものを裁くのもここである。

そのいくつかの決まりごとを破った者は『禁忌犯し』と呼ばれ、境会にて半永久的な監禁が待っているらしい。

そして、この『禁忌犯し』が集まったのが『終わらない終焉』。彼らは境会のやり方に納得できず、一つの組織となって境会と幾年もの戦いを続けている。

「ここまでは大丈夫?」
「あー、まぁ。話がぶっ飛び過ぎてついていけない部分もあるけど」
「まぁ、仕方がなかったりとか」

そう言えば彼女は「じゃあ、続けるわね」と言って再び話を始める。

「さっき言った三つのうち、私たちは一番目のタイプ。私の場合は境会直属になるわ。で、彼は…」
「僕は第Ⅰ級の『運命のトーラ』所属魔術師だったりとか」
「第Ⅰ級?とーら?なんだそれ?」
「あー、そこからね…」

はぁ、と彼女はため息を一つして、しかしすぐに表情を一変させ突如立ち上がった。

「な、おい。どうしたんだよ」

その問いに答えたのは隣で同じように立ち上がった亜季だった。

「お客様だよ」