複雑・ファジー小説
- 第四章『始動』 ( No.17 )
- 日時: 2014/03/20 19:36
- 名前: シイナ (ID: TzDM8OLf)
【2】
「影縫い程度に捕まるなんて、何やってるの」
黒磨と亜季が逃げて柏葉と獅子だけになったはずのそこに、第三者の声が響いた。
「っだれ!?」
「さあ?誰だろうね」
突如現れたランドセルを背負った女性。
その格好は違和感のあるものだったが、柏葉には彼女が熟練者であることを悟り、警戒を強める。
「僕ボク様だって好きで捕まったわけじゃねえよ」
「それぐらい知ってるよ。私なんだからね」
でも、しばらくはそのままでいなよ、と彼女は獅子に言った。
そして柏葉に向き直り「はじめまして」と挨拶をする。
「私は御笠埜。『終わらない終焉』の御笠埜雛菊だよ。君は『境会』の人間でいいのかな?」
「……ええ」
『終わらない終焉』の所属。
彼女がそうであるならば、スーツの男—獅子もやはりそれであろうと柏葉は予測する。
今回は『境会』の任務で彼と戦っていた訳ではなく突如襲われ応戦しただけなので確信は持てないでいたのだ。
(禁忌犯しなら全力でやれる、ううん、やるしかない……!!)
ぐっと拳を握り詠唱の準備に入る。
だが。
「あぁ、まってくれないかな。私たちは君と戦いたいわけではないんだ。ただ聞きたいことがあるだけだよ」
「……どういうこと?」
くすりと笑って御笠埜は「簡単なことだよ」と言った。
「君は『サイハテの魔法』がどこにあるか知っているかい?」
「『サイハテの魔法』……?」
「なるほど。知らないんだね」
ならいいんだよ、と言って御笠埜は柏葉に背を向ける。
「私たちの用事はそれだけだ。さて、帰ろうか」
「っな、待ちなさい!!」
禁忌犯しの二人を逃がすわけにはいかないと、急いで追いかけようとする。
だが、現れたときと同様に、御笠埜は獅子と共に一瞬で姿を消した。
- 第四章『始動』 ( No.18 )
- 日時: 2014/03/21 14:44
- 名前: シイナ (ID: TzDM8OLf)
【3】
「私にしては、らしくない判断だったね。急に襲いかかるなんてさ」
「捕まえたほうが早いと俺は判断したんだよ」
っち、と舌打ちをして、獅子は御笠埜にそう言った。
不機嫌そうに顔を歪める彼に、先ほどまでのような狂気は見られない。
もちろん、狂ったような笑いもその口から飛び出ることはなかった。
「確かにそうかもしれない。捕まえれば拷問も可能だからね。でも、一般人や他人を巻き込んで、あそこまで大きな騒ぎにする必要はなかったんじゃあないかな」
「……まさか『副産物』の使い手だとは思わなかったんだよ」
「副産物?」
きょとんと目を大きく開き、御笠埜は「彼女が?」と言った。
「ああ。あれは間違いなく『副産物』だ。そうでなければ『英霊召喚』なんてできねえだろ」
まあ、あの様子だと本人は気づいてないようだけど、と獅子は言う。
ふうん、と御笠埜は相槌を打って「興味深いね」と返した。
「とりあえず、今回わかったことも含めてもう一回計画を練り直そう。『副産物』も気になるけど、私たちの一番の目的は『サイハテの魔法』なんだから」
「わかってるっつーの」
それで二人の会話は終了した。
目的地までこれ以上の会話はなく、二人は海の上をゆっくりと歩くのだった。