複雑・ファジー小説

第五章『魔法事情』 ( No.29 )
日時: 2014/04/08 17:10
名前: シイナ (ID: WUYVvI61)

【1】

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たとえば君が世界から消えたところで、人類が滅亡することなどない。

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「あ、黒磨くん!!」
「よっす、風花。遅くなってわりぃ」

病室に入って俺は風花にそう謝った。苦笑いを浮かべる俺に、彼女は「気にしてないから大丈夫!!」と笑顔で言う。

「こうして来てくれただけでも嬉しいもん。…ところで、その人は?」

首をこてんと傾げて風花は俺の後ろに立つ男を見た。自分のことをいっていると気づいた彼は「こんにちはッス」とニコニコと 言った。

「ぼくは緋色、羽多野緋色はたのひいろッス。風花さんたちのクラスに夏休み明けから編入することになったんで、ご挨拶しに来たッス!」

よろしくッスよ!!と満面の笑みで挨拶をする。「よ、よろしくッス?」と応える風花に俺は「語尾移ってるぞ」と言っておいた。

「あー、風花。この人はクラスこそ一緒だが、年齢は俺らの一つ上だ。留学していたから俺らの学年からになったんだとよ」

先ほど本人から言われた『設定』を風花に伝えれば彼女は「ええっ!!」と驚く。

「あ、別に敬語とかいらないッス!!普通にタメでいいッスよ。ぼく、そういうの苦手ッスから」
「えっと、じゃあ羽多野、くん?」

はいッス!!と嬉しそうに笑う彼に風花はよろしく、と言った。……なんだかいい雰囲気になってきているような気がする。

「ごほん」とわざとらしい咳を一つして、俺は風花に「とりあえず」と言った。

「俺らは今日はこれで帰るよ。本当はもうちょっと居たいんだけど、人と会う約束があってな」

ごめんな、と言えば彼女は少し淋しそうに「そっか」と言った。

「そのかわり、って言ったら変だけど……これ、やるよ」
「うわぁ、コサージュ?可愛い!!」

俺が彼女に手渡したのはピンク色のコサージュだった。きらきらと目を輝かせる風花はとても喜んでいるようで少し安心する。

「それじゃあ、今日はこれで。また来るから」
「うんっ!!ありがとう!!羽多野くんもばいばい!!」
「さよならッス!!」

軽く手を振って病室を後にし、俺たちは病院から出る。

夕焼け空の下、くるりと俺に向き直った羽多野は「さて」と言った。

「それじゃあ、『境会日本支部』に行くッスよ」