複雑・ファジー小説
- 第五章『魔法事情』 ( No.29 )
- 日時: 2014/04/08 17:10
- 名前: シイナ (ID: WUYVvI61)
【1】
▽▲▽▲▽▲▽▲
たとえば君が世界から消えたところで、人類が滅亡することなどない。
▽▲▽▲▽▲▽▲
「あ、黒磨くん!!」
「よっす、風花。遅くなってわりぃ」
病室に入って俺は風花にそう謝った。苦笑いを浮かべる俺に、彼女は「気にしてないから大丈夫!!」と笑顔で言う。
「こうして来てくれただけでも嬉しいもん。…ところで、その人は?」
首をこてんと傾げて風花は俺の後ろに立つ男を見た。自分のことをいっていると気づいた彼は「こんにちはッス」とニコニコと 言った。
「ぼくは緋色、羽多野緋色ッス。風花さんたちのクラスに夏休み明けから編入することになったんで、ご挨拶しに来たッス!」
よろしくッスよ!!と満面の笑みで挨拶をする。「よ、よろしくッス?」と応える風花に俺は「語尾移ってるぞ」と言っておいた。
「あー、風花。この人はクラスこそ一緒だが、年齢は俺らの一つ上だ。留学していたから俺らの学年からになったんだとよ」
先ほど本人から言われた『設定』を風花に伝えれば彼女は「ええっ!!」と驚く。
「あ、別に敬語とかいらないッス!!普通にタメでいいッスよ。ぼく、そういうの苦手ッスから」
「えっと、じゃあ羽多野、くん?」
はいッス!!と嬉しそうに笑う彼に風花はよろしく、と言った。……なんだかいい雰囲気になってきているような気がする。
「ごほん」とわざとらしい咳を一つして、俺は風花に「とりあえず」と言った。
「俺らは今日はこれで帰るよ。本当はもうちょっと居たいんだけど、人と会う約束があってな」
ごめんな、と言えば彼女は少し淋しそうに「そっか」と言った。
「そのかわり、って言ったら変だけど……これ、やるよ」
「うわぁ、コサージュ?可愛い!!」
俺が彼女に手渡したのはピンク色のコサージュだった。きらきらと目を輝かせる風花はとても喜んでいるようで少し安心する。
「それじゃあ、今日はこれで。また来るから」
「うんっ!!ありがとう!!羽多野くんもばいばい!!」
「さよならッス!!」
軽く手を振って病室を後にし、俺たちは病院から出る。
夕焼け空の下、くるりと俺に向き直った羽多野は「さて」と言った。
「それじゃあ、『境会日本支部』に行くッスよ」
- 第五章『魔法事情』 ( No.30 )
- 日時: 2014/04/03 15:35
- 名前: シイナ (ID: TzDM8OLf)
【2】
時は少し遡る。
柏葉を置いて俺と亜季が逃げた先にいたのは、一人の少年だった。
「あ、『運命の札』の亜季夕魔さんッスね」
「……だれ」
「はじめましてッス。僕は羽多野緋色っていう者ッス。境会からお二人のサポートをするよう頼まれて」
証拠ならこれッスよ、と彼は銀色の懐中時計をとりだして俺たちに見せた。
不思議な模様が彫られたそれを見て、亜季は「……了解」と小さく頷く。
「『終わらない終焉』と接触した。彼は巻き込まれちゃったりとか」
「なるほどッス。えーと、君の名前は?」
「……真黒黒磨」
どうやら敵ではないようなので俺は素直に名前を言った。
「まっくろさんッスか」
「ちげぇよ!!」
思わず怒鳴り返せば「あはあ、冗談ッスよ、真黒さん」と笑われる。なんなんだと思っていれば羽多野と名乗った男は表情を引き締めて「さて」と言った。
「真黒くん、今回見聞きしたことは絶対に喋らないようにしてほしいッス。本当はあんたの記憶を消すのが一番なんだろうけど、そういうわけにもいかないみたいッスからね」
「あ、ああ。それはいいけど…」
「状況が飲み込めていないッスか?」
こくりと頷けば「まあ当たり前ッスよね」と羽多野は笑った。
「本当は今すぐ色々説明してあげたいんッスけど、上がどこまで許すかわからないんッスよね。だから、簡単に少しだけ説明しておくッス」
そういって彼が話した内容は、だいたい亜季と柏葉から聞いたことと同じだった。
この世界には魔法が存在し、それを使う人を魔法使いということ。
魔法使いを取り締まる組織の『境会』というものがあって羽多野や柏葉はここに所属すること。
『境会』の下にはさらに小さい組織が幾つもあってそのうちの一つ『運命の札』に亜季は所属すること。
今回、俺は魔法使いの犯罪者との争いに巻き込まれたということ。
「……まあ、だいたいはそんな感じッス。詳しいことはこれから『境会日本支部』に移動して話すんでついてきてほしいんすけど…いいッスか?」
「ああ。構わねえ」
「それって、僕もついていったほうがよかったりとか」
「そうッスね。できれば着いてきてほしいッス」
わかった、と亜季は頷いた。それじゃあ行くッスよ、といって出発しようとする羽多野に俺は「待ってくれ」と声をかける。
「どうしたッスか?」
「先に、寄りたいところがあるんだけど…」