複雑・ファジー小説

第五章『魔法事情』 ( No.36 )
日時: 2014/04/03 16:16
名前: シイナ (ID: TzDM8OLf)

【3】

時は戻る。

行きたかったところ——風花のところに無事訪問した俺は、案内役の羽多野と共に『境会日本支部』という場所に向かっている、らしい。

「政府と警察、それから裁判所が一緒になったような場所、それが境会ッス。規模はまちまちッスけど、どの国にも支部があって、それは日本も同じなんッスよ」

と、羽多野は俺に説明した。それから付け足すように「ぼくや柏葉さん、あとは亜季くんもここに所属するッス」と言う。

「ん?あれ?亜季は『運命のトーラ』とかいうやつの所属じゃなかったのか?」
「ああ、確かにそうッスね。亜季くん自身は『運命の札』の所属ッス」

でも、それは境会所属と同じ意味になるッス、と羽多野は言う。その意味がわからず首をかしげていれば、彼は分かりやすく俺に説明してくれた。

「この世界にはたくさんの魔法使いがいるッス。きっと真黒くんの想像している以上に。だけど、ぼくも含め彼らだって根本はただの人間、魔法が使えるだけの人間なんッスよ。規律のない、ルールもモラルもない世界で生きられるほど器用じゃない。だから彼らは規律を作った。『境会』という名の魔法政府を。それが境会の始まりッスね」

そこで彼は一呼吸おいて、「最初は、」と続けた。

「境会だけでうまく纏めれたッス。だけど所属する人が多くなって……端にまで目をやる余裕がなくなった結果、色々な問題が起きたんッス。これではいけない、と判断した境会は、所属する人々をいくつかのグループに分けた。その頭に信用できる人物を置いて、それぞれに監視させたんッス。……ここまで言えばわかるかもしれないッスけど、そのグループの一つが『運命の札』ッスよ」

だから、境会所属だと羽多野は言った。ふうん、と俺が頷くと、彼は「うーん」と唸った。

「どうした?」
「いや、堅苦しく説明させてもらったんッスけど…今は一つひとつのグループがそんなふうにできてるわけじゃない、と思って。基本、メンバーと資金、それから頭がいればグループ、というか組織として境会に承認されるッスからね」

まあ気にしないでほしいッス、と彼は笑った。俺は曖昧に頷いておく。それからずっと気になっていたことを訪ねた。

「……なあ、俺の記憶が確かなら、この先には廃病院しかなかったはずなんだが」
「はい、そうッスよ」

誤魔化しも否定もせずに、やけにあっさりと羽多野は頷いてみせた。

「あれ、いってなかったッスかね?境会の入り口はそこにあるんッスよ」

まじですか。