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複雑・ファジー小説
- 第五章『魔法事情』 ( No.44 )
- 日時: 2014/04/17 07:43
- 名前: シイナ (ID: P747iv5N)
【6】
羽多野緋色は幼い頃から境会所属の魔法使いだった。物心つく頃にはすでに境会に所属していて、年齢こそ低いが、それでも同年代の魔法使いたちに比べれば一番長く魔法使いとして働いているだろう。
さらに彼は自覚のある天才だった。幼い頃から魔法に触れていたというのももちろんあるが、それ以上に感性が優れていた。
自分の魔法の性質も早くから理解し、すでに一流といわれるほどの実力も持っている。対人戦の経験も多く、知識だって十分にあるはずだ。
だから、自分の一歩後ろを歩く少年——真黒黒磨が幻覚魔法を見破ったとき、羽多野は驚いた。冷静に魔法を分析しているように見せながら、内心は大荒れであった。
なぜ、知識も何もない、今日魔法に関わったばかりの少年が自分が気がつかなかった魔法に気がついたのか。完成度はかなり高かったので、一般人が気がつけるようなものではない。
(まさか、一般人ではないとかッスか?隠しているだけで本当はどこかの魔法使い?)
そこまで考え、羽多野は自分の考えを否定する。境会の調べによると彼は一般人だった。境会が情報を間違えるとは思えない。
(ま、あとでゆっくり考えればいいッスかね)
そう結論付けた羽多野は黒磨について考えるのをやめた。境会の上部に聞けばいい、そんな考えからだった。
だが、彼はここで大きなミスを一つしている。
黒磨が言った『歪んで見える』という言葉。この言葉を思い出してもう少し考えていれば、禁書にまで及ぶ羽多野の知識で答えにたどり着けていただろう。そうすればこれから先におこる悲劇の回避もあるいはできていたかもしれない。
真黒黒磨が『ただの』一般人でないことに気がついていればの話だが。
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