複雑・ファジー小説

第五章『魔法事情』 ( No.46 )
日時: 2014/07/07 19:34
名前: シイナ (ID: z0poZTP7)


【7】

「すげぇ……」

俺の口から出たのは、ただその一言だけだった。

「うっわ、また豪華になっているッスね」

俺の後から下に下りてきた羽多野の言葉も、今は気にならない。それぐらい、俺は目の前の景色に見とれていた。

梯子を使って下りた先には、茶色い大きな扉があった。その大きさは恐らく三メートルほど。細部にまで装飾が凝らされており、所々にキラリと光る宝石もみえた。

もちろん、それにも驚いたし感動した。これほどまで大きく繊細な扉は始めて見たからだ。だけど、それ以上に。

「綺麗だな……」

扉の周囲に浮かぶ淡いたくさんの光。青や赤、あるいは薄紫で縁取りされたようなその輝きはひどく幻想的だった。呼吸をすることさえも忘れて、瞬きさえも忘れて、俺はその景色に見いる。

「ねえ、真黒さん。ぼく、きみに伝えてないことが一つだけあるんッスよ」

小さな声で、しかし俺には聴こえるくらいの大きさで、彼はそう呟いた。「伝えてないこと?」と振り返りながら羽多野を見れば、今までで一番真剣な顔をして俺を見る姿がある。

「たぶん、真黒さんもわかっているとは思うッスけど、魔法って簡単に知られちゃいけないことなんッス。だから、スイマセン」
「は、え。何を……っ!?」

輝きのない濁った瞳。感情の抜け落ちた表情で、彼は俺に手を伸ばす。

「安心してほしいッス。大丈夫。傷つけたりはしないッスから」

一瞬だけ、寂しそうに、哀しそうに羽多野が笑った気がした。

「【code_flame@target:memory(記号は炎、対象:記憶)】」



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お久しぶりです!しばらく放置していて大変申し訳ありません。リアルが落ち着いてきたのでまたちょっとずつ更新させていただくことにしました。こんな駄作ですが応援よろしくお願いします!!