複雑・ファジー小説
- 幕間 ( No.47 )
- 日時: 2014/07/08 07:32
- 名前: シイナ (ID: z0poZTP7)
幕間
「ん。またズレが生まれたな。うーん、だが、しかしこれは……」
小高い丘の上で、一人の少女が唸っていた。ローブを身に纏った彼女は手にもった懐中時計を難しい顔でじっと見ている。
「本来ならば、ここまで進まないだろうに。あぁ……そういえば。なるほど。最初のズレが影響しているのか。確かに、それならば……」
ぶつぶつと何かを呟き、彼女は思考に耽る。ハジマリのさらにその前から現在まで。所々欠けてしまっている記憶をなんとか繋ぎ合わせ、今のズレと照らし合わせてみる。
そうやって数十秒ほど考え込んでいた彼女は、やがてひとつの『答え』にたどり着き、焦ったように顔をあげた。
「ま、まさか……!! い、いやしかし、あれはそう簡単には……あ、あぁ、まずい、そんな馬鹿なことが……もしそうならば急がなくては……」
珍しくも焦りを表に出す彼女は、あわあわとローブの内側より何かを取り出す。同じような銀の塊を三つほど手の内に収めると、一度強くそれを握ってから地面へと落とした。
「【time_code$***#%@##$*$&*】」
何語とも取れぬ音。いや、音かどうかさえも怪しい何か。それを彼女が紡ぐと、落としたはずの塊が今度は彼女の身長と同じくらいの高さまで浮いた。
「【time_call@-&>$#*-*\&&#$】!」
再び紡がれる何か。叫ぶかにように力強く、そして歌うようになめらかに、彼女はそれを唱えた。
光を纏った塊はその音を受けて、小さく弾けた。三つが六つに、そして六つが十二に、それぞれが違う色の輝きを纏っている。
「さあ、お前たち。あるべき場所へ帰るのだ。お前たちの主の場所へ。彼らは今はただのか弱き人間。他の者たちに紛れている。だが、お前たちならば辿り着けるだろう」
少女は語りかけるようにそう言った。それに答えるかのように、一際大きく輝いたそれらは、ゆっくりと上昇して。
「さあ、行くのだ」
その声と共に、四方八方へと飛び散った。
「……とりあえずは、これでなんとかなるだろう。時間がどれほど稼げるかはわからんが、何もしないよりはいい。その間に私も準備しなくてはな」
彼女は再び懐中時計を見つめる。それをぎゅっと握りしめ、胸へと当てて、また音を紡いだ。