複雑・ファジー小説

第二章『予兆』 ( No.8 )
日時: 2013/11/02 20:32
名前: シイナ (ID: ptyyzlV5)

【2】

PM8:30

『へぇ。大変だったんだね。バルーンは無事?』
「ああ。ギリギリスーパーに間に合ってさ。そういうお前は?今入院中だろ」

電話して大丈夫なのか?と聞けば、元気に返事が返ってきた。

『大丈夫だよー。だって検査入院だもん。本当はもう帰れるハズなのにさー。みんな心配性なんだよ』
「そういうなって。みんなお前のこと思ってなんだから」
『うぅ、わかってるよ。でもやっぱり遊びたいんだよね…』

ゆずちゃんにも会いたいし。と電話の向こうで彼女は続けた。それに俺は苦笑を返す。

あの後、俺はどうにかしてスーパーまでいき、閉店間際に駆け込みで牛乳を買うことに成功した。

それを今の電話相手——風花優香(かざはなゆか)に話していたのだ。

彼女と初めてあったのは五月はじめ。俺のクラスにはいつも空いている席がひとつあって、それが彼女の席だった。

喘息持ちで体が弱く、一ヶ月遅れの仲間入りとなったのだ。

しかしそれはいい意味でも悪い意味でも目立った。

体は弱いのに成績はいい。それを気に入らない人間も多く、いじめに繋がってしまったのだ。

最初は俺も見て見ぬふりをしていた。しかしいじめはエスカレートしていき、我慢できなくなった俺が口をだしたのだ。

以来、俺達は仲良くなり、たまにこうして電話をすることもある。

「まあそう言うなって。そうだ、明日お見舞いにいくからさ」
『ほんと!?約束だよ!!』

先ほどまでの声とは変わって一気に雰囲気が明るくなる。元気を引き出すことに成功した俺は小さくガッツポーズをした。

「ああ。約束だ。ほら、もう電話切るぞ。お前も早く寝ないといけないしさ」
『えぇっ、も、もうちょとだけ!』
「・・・明日、行かないぞ」
『うわあもうこんな時間私寝ないとばいばいおやすみ』

ガシャン、という音の後、ツーツーと機械音がなる。最後だけ早口だったのには突っ込まないことにした。

「さてと。俺も風呂入るか」

ゆっくりと立ち上がり、部屋を出る。柄にもなく、明日が楽しみに感じた。