複雑・ファジー小説
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【罪と輪廻シリーズ第三弾 連載開始!】 ( No.13 )
- 日時: 2014/07/02 21:55
- 名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: I.inwBVK)
【第三話】<この頃の若者は……> -狂った子供-
「……?」
二人の少年が爆笑するのを、ボクは首をかしげながらみていた。
周りの人たちも、白けた目をして通り過ぎて行く。
「あははははははっ!! 俺たちを見上げながら上から目線だってさ、真人!!」
「ちょっ、勘弁してくれよっ!! ははははははっ!」
……。
置いていかれている感覚が半端ない。
その上、なんだかすっごい虚しくなってくる。
ボク、悪いことしたかなぁ?
「どうした。さっさと名前を言え」
その時、一つの不安がボクの頭をよぎった。
「もしかして……名前がないのか?」
ボクは、爆笑する二人に対して、そう聞いた。
——凄く稀なことなのだが、たまにいるのだ、名前のない人間が。
周りの人たちに、下の位の者、嫌な言い方をすれば、“奴隷”扱いをされて、一般の者と認めてもらえない者。
ボクの仲間にも、番号で呼ばれている奴がいる。可哀想だけど、そんな奴を庇うことができるような余裕を持っている人間がいないのも事実だ。それは、認めるしかない。実際、ボクも庇うことができていないのだから。
それに対して、ボクは、名前を持っている。しかし、そっちは殆ど使用されていない。使用されるのは、ボクが嫌っている異名である、“狂った子供”なのだ。
なんで、ボクが“狂った子供”と呼ばれ続けるのか。それには、勿論理由があった。
——いつの日だったか。あれは、もういつのことか思い出せないほど、昔の話。
【成人大量虐殺事件】。
そんな名前の事件が、一世を風靡した時代があった。
その事件の内容は、実に単純なもので、「子供10人程のグループが、大人を大量に殺した」というものだった。
その時のリーダー。それが、ボクだった。あの時代から、ボクは、青いツインテールで、白いワンピースを着ていた。
そういえば、今は真っ赤になっちゃった愛用しているワンピースも、あの頃は真っ白で綺麗だったなぁ。
なにしろ、あの頃のボクはある意味では〈無垢〉だったから、こんな虐殺が遊びを純粋に楽しんでいるような子だったと思う。
それでも、今思えば、この時から狂っていたんだろうけど、今に比べたら、すーごくマシ。
それにしても、ボク等10人は、なかなか捕まらなかったなぁ。今思い出しても、それは感心してしまう。
まぁ、ボクがリーダーで負けるはずがないんだけどね、警察官に。
結局、時効ってもののおかげで、もうボクは捕まらなくなった。
5人程は捕まったらしいけど、ボクは助かったから、それでいい。後の5人がどうなろうが、ボクには関係ないんだから。
でも、毎日が退屈になった。面白くない。
それで、ボクは、ある雑誌に一つの文章を投稿した。今でも、その内容は鮮明に覚えている。
あれには……ボクなりのジョークが含まれていたと思う。
【 こんにちは。皆様。ボクは、あの成人大量虐殺事件のリーダーです。
あの時にボクは、沢山の人を殺しました。沢山の仲間を犠牲にしました。
それでも、ボクは自分は悪いと思っていません。ボクを含む、世界の大人たちが悪いのです。
子供だと高を括っているから、皆さんが痛い目にあうのです。
本当に、ボクが悪いと思っているのならば、ボクを捕まえてみてください。
もし、皆さんの無能なその脳みそで、ボクを捕まえられたなら、ボクはその罪を認めることにしましょうかね。まぁ、無理でしょうけど。だって、その脳みそに入ってるのは、蟹味噌でしょ?
なんてね、ちょっと馬鹿げてみました。
まぁ、そんなのは置いておいて。精々、頑張ってくださいね。
あなた達の無能なザマを、楽しみにしていますから。
——より。】
あの時、ボクは、自分の名前に墨を塗っていた。
だから、ボクの名前は、世間に知られることはなかった。
その代わり、住所や名前を書く欄には、「Children」とだけ書いておいた。なんでChildrenか、っていうと、ボクらは以前は子供10人だったわけだから、Childの複数形にしただけ。大した理由じゃない。
あの「悪人」からの文章の投稿。この文章は、早速大きな記事にされた。
「もしかしたら、誰かの悪戯かもしれない」
そんな思考は、きっと出版社にはなかったんだろうね。デカデカと「あの虐殺事件の『原罪者』のメッセージ!!」なんて書いちゃって。バカみたい。
まぁ、その文章を書いたのは、確かにその『原罪者』張本人だけども。
そして、その雑誌が出版された日。その日から、警察官から国民まで、国をあげての総動員で『ボク探し』が始まった。
「見つかるはずがないのにね」
ボクは、笑いながら、暗い部屋で麦茶を飲んでいた。その雑誌を読みながら。
ボクの筆跡? そんなもの、ボクには簡単に変えられる。女性文字から、男性文字まで自由自在に。
だって、ボクは普通じゃないからね。
それに、ボクがどれだけ有能な人間なのか、大人は分かっていない。きっと、この世界で一番頭の良い人間がボクに挑んでも、ボクには勝てないと思うよ。
そんなことも分からずに、無能な彼らは、ボクを探していた。
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【罪と輪廻シリーズ第三弾 連載開始!】 ( No.14 )
- 日時: 2014/07/02 21:50
- 名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: I.inwBVK)
あぁ、また変なことを思い出してしまった。
ま、そんなことは置いておこう。とりあえずは、目の前の二人のことだ。
これだけ笑われると、腹が立つのは、きっと僕だけではないだろう。怒らなくとも、不快には思うはず。
「なんだ。人を笑うとはいい度胸だな」
そういって脅してみる。
だけど、逆効果らしい。またまた二人は爆笑。なんか、流石に嫌だぞ、これは。ボクを笑うなんて、さっきの大男よりもたちが悪い。
「ははははっ、お前さ、すごくね? 名前知らない人に、そんな言葉遣いするか!?」
真人じゃない方のやつが、そう言って笑った。
は? いや、知ってようが知らまいが関係ないだろうが。全人類平等に、ボクに偉そうにするやつは許さない。ボクに逆らうのは許さない。
しかし、例外は除く。“傍観者”と、“規律”、“無秩序”だけは例外だ。
——彼らは、ボクよりも強い存在だから。
「うるさいな。さっさと名前をいえ」
ボクは、もう一度険しい顔で聞いてみた。これで言わなかったら、後ろにいる時雨の静止も聞かずに、こいつらを黄泉の国に送ることになろう。
「ははははっ!! 俺は、白野 夜人だ。白いの白に、野原の野、白夜の夜、人間の人 な」
真人じゃない方のやつが、丁寧に説明してくれた。
——しろの よると。うん、悪くない名前だ。
ボクは、そんな感じの名前は、好きだったりするのだ。なによりも、夜人の名前は、少しロマンチックな気がするのは、彼の名前から雪の降る夜を連想してしまったのは、ボクだけなのだろうか。そして、白野という名前である男を思い出してしまったのは……。
「俺は赤崎 真人だ。よろしくな。それで……お前は?」
もう一人は、めんどくさそうに自己紹介をした。なんと適当。夜人とのこの違い、笑ってしまう。
でも、一番後ろに「人」がつく者同士、仲がよさそうだ。性格が違っても仲良くできるのは、いいことだ。多分。(別に、皮肉なんかじゃないぞ、笑われて怒っているとかじゃないぞっ!!)
「ボクか? なんで、ボクの名前を知る必要があるのかい?」
ぷっ、くく……。笑う声が聞こえた。それは、段々大きくなっていく。
そして、爆笑。
なんで笑われたのだろうか。ボクは、思ったことを言ったまでなのに。
だって、そうだろう? ボクの名前を知っても、こいつらは何に利用するのか。それがはっきりしない。だから、ボクが教える必要性は0だ。
「いや、お前が聞いてきたんだから、お前も教えろよっ、はははははははっ、笑いとまんねぇっ、ははっ」
夜人は、目尻を指でぬぐいながら笑っていた。涙がでるまでなんて、どんなに笑ってんだよ。まるで、ネットでよく使用される「w」が、彼の周りに浮かんでいそうだ。
さて、それはいいとして。ボクの名前か……。これは困ったぞ。
「ボクは……“狂った子供”だ」
少し躊躇したが、仕方なくそう答えた。
さっき、この名前は嫌いだと言ったが、これしか言えない。何故なら、ずーっと隠し通してきた名前を、こんなところでバラすにはいかないからね。あの事件を起こしてから、ずっと隠しているのだから。一文字たりとも、周辺に漏らさずに。……といっても、あの事件を知っている人間なんて、もう殆ど居ないんだろうけどね。だから、この件については、殆どボクの小さなプライドってところかな。
「え? もしかして、お前厨二病だったりするわけっ!?」
そんな、ボクの複雑な心情も知らずに、私に同情の表情を向ける奴は、勿論夜人である。
は・ら・た・つーっっ!!!!
なんなんだよ、こいつは! こっちのことも知らずに。そりゃ、聞いていないんだから知らないのは当たり前なんだけど。いや、聞いても教えないけども。
それと……、厨二病ってなんだ。今度、調べてみようか。“傍観者”に頼んで。
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【罪と輪廻シリーズ第三弾 連載開始!】 ( No.15 )
- 日時: 2013/12/26 22:04
- 名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: a0p/ia.h)
「そ、そんな訳がないだろう。ボクは、厨二病なんかではない」
とりあえず、冷静に。厨二病は知らないが、知ったかぶりでなんとか誤魔化そう。
きっと、ボクの顔は、複雑な表情だろう。だが、仕方ない。夜人になにか失言してしまったら、ボクの何かが終わってしまうだろう。色々、別の意味で。いや、どんな意味なのかはよく分からないけど。それは……アレだ、アレ。察しろ。
「へぇー。で、本当の名前は?」
今まで、夜人の横で笑っているだけだった真人が、そう聞いてきた。
その声には、笑いとからかいが含まれていて、少し腹が立ったが、夜人よりかはマシだ。
しかし、彼のいった言葉——本当の名前。
その響きは嫌いだ。まるで、ボクが偽名を使っているみたいに聞こえるから。
ボクは偽名を使っているわけではない。ただ、ボクを形容している言葉を名前として利用しているだけである。ボクが、周りから「狂った子供」とみられたのだから、私はそれを名前にするのだ。
ボクは、いつも思う。
名前というモノは、とても自由だ。といっても、“天使”と書いて、エンジェルと読むとか、“樹羅羅”とかいて、キララと読むような、キラキラネームや当て字の名前のことを言っているのではない。それの、存在意義のことを言っているのだ。
これは、かなり分かりにくい表現をしている、と自分でも思った。ボクは、そんなに難しいことを聞くのは嫌いではない。でも、難しいことを話すのは好きではない。
しかし、現実にあることを正確に伝えるのも、その人の技だ。もし、目の前にある現実が伝え難いものだとしても。
だから、それを簡単に説明できることもボクのスキルの一つとなるわけだ。ということで、説明してみたいと思う。
名前の存在意義のことを、簡単に例えるならば、まずそ
こに一人の人がいたとしよう。その人を仮に『Aさん』とする。そのAさんは、スポットライトが当てられている間は常にAさんとなる。その人の名前が本当はBさんだとしても、Aさんという名前で過ごさなければいけないのだ。言い換えれば、誰も見ていない場所ではBさんになっている。
……ここで、名前の存在意義が有耶無耶になる。
皆の前では確かにAさんだが、裏ではBさんになるわけなのだ。
その人の名前はどちらが正しいのか。そういわれると、誰も答えることができない。なぜなら、私たちからはAさんなのだから。
では、そのAさんが『私はBです』と言ったとしよう。ほら、また、新しい名前がでてきた。
え? なに? さっきも、Bは出てきたじゃないかって?
やはり、あなたの頭の中でも名前が有耶無耶になっている。
ボクは、先ほどまでAさんは、裏ではBさんだと言った。Bだとは言っていない。
あなたは、おかしいと思っただろう。だって、人が自分の名前にさんやちゃん、君を付けるはずがないのだから。
しかし、この話の中では、人間の常識とも言える「自分の名前にさんやちゃん、君は付けない」というモノは必要ない。ボクは、その常識がこの話に適用されるとは一言も言っていないからだ。
つまり、ボクがAさんと言った時点で、その人の名前はAさんなのだ。Aではない。だから、他人から呼ばれる時はAさん“さん”になるべきだろう。Aさん、だと呼び捨てになるわけだ。
それと同様に、AさんはBさんである。Bではない。ボクはAさん、Bさんと言ったはずなのに、いつの間にか人の頭の中ではA、Bと処理される。
これは、とても面白い話だ。この話には、名前の必要性がない。だって、AさんがAとされるのに、最早明確な名前なんて必要ないだろう。その人が、太郎だろうが花子だろうが、話は変わらない。
以上の説明から、ボクには名前の存在意義は、ないように感じられる。
名前なんてなくても、その人のことは示すことができるのだ。例えば、名前とは認識されない番号の羅列とかでも。
人間は、番号の羅列で示されることを嫌がるが、それと自分の名前が同じようなものであるとは考えもしないのだろう。「自分は、佐藤 花子という名前がある。だから、番号で示される人間とは違うのだ」と。
しかし、その佐藤 花子だってその人を表すための言葉に代わりはない。
だから、その佐藤 花子は別のところではsさんと呼ばれているかもしれないし、No.12345と呼ばれているのかもしれない。
番号で呼ばれることに嫌悪感を感じるのならば、同じくイニシャルにも何かを感じるべきだ。イニシャルは英語だ、つまりは数字と同じような扱いを受けている。にもかかわらず、イニシャルなら良しなのだ。
それはなぜか。それは、ボクが思うに「それが自分の名前を省略したもの」だからだ。さっきの話で例えれば、佐藤 花子は、英語で示された自分の名前の中に「s」と「h」がはいっているから良いのだ。
自分の名前が表されている“気”がするのだ。
それが、番号とは対して変わらないのには気づかずに。
名前なんて、最初から必要とされない。
きっと、人間が、一番初めから番号で呼び合っていえば、番号で呼ばれることが当たり前になっていただろうし。
これと同じように考えると、ボクの本当の名前だって必要ない。
そして、自分の名前を思い出そうとした瞬間、目の前がスパークした。
——あれっ? ボクは、何が言いたかったんだろう。
ふと、そう思った瞬間に、なにかが私の頭の中で、塩をかけられた蛞蝓のようにしゅわしゅわと消えてなくなっていく。
そして、私は今まで話していたことだけを忘れてしまうのだ。いつものように。
彼女は、私を蝕んでいく。最初は、容姿から。それが、口調、性格にまで手を伸ばして——
前には、夜人と真人が微笑んでいた。……はず。
でも、次の瞬間、ボクの目からは天井しか見えなくて。なにかに打ち付けたらしい後頭部に痛みが走った。
【第三話 END】